pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
「誉れ高き子」続き
凛とあれと教育されてきた少女は負けん気が強い上に、その地位相応のプライドも持っていた。けれど見苦しいのは嫌いだ、否、自分の見苦しいところを人に見せるのが嫌いだ。泥臭い努力も根性論も決して拒否しているわけではない。ただ、自分の努力を他人に見せるようなことは死んでもするまいと頑なに決めていた。同情されたり応援されたりするのは、とても耐えられない。
学校では幼いながら高嶺の花としての立ち位置を確立し始めた。もちろん家では自慢の一人娘。女性として少しの可愛げもない点を除いては、彼女は模範的な子供だった。常に理性的かつ自信を誇示し、ただし目上の大人には敬意を払い物分かりをよくするということがどういうことなのかを知っていた。子供としてはこれでいい。しかし、大人になったらどうなるのだろう。
——誰も本当に”君"のことなんか考えてくれちゃいない——
先日、あの年上の少年と話をしたときから、頭にこびりついて離れないフレーズ。言われた瞬間の感情の揺らぎ、そして移り変わり、全てが克明に蘇る。そして連鎖するように、いままで殆ど忘れかけていた他愛もないやりとりが思い浮かんでくる。
(大人なんだから子供よりも強いのは当たり前……)
反芻する。彼女の意志とは関係なく、ただひたすらに繰り返される。誰がそう応えたのかも覚えていないのに、時には母の声、時には学校の先生の声、時には彼女を取り囲む人々の声で再生された。大人なんだから子供よりも強いのは当たり前? ならば少女も、いままさに誰からも褒められて持て栄されている彼女すらも、大人になったら当たり前になるのだろうか。けれど大人になっても彼女は彼女だ。ただ大人になるというだけで、自身に変わりはない、はずなのに。
(……母様も父様も、先生も……あの日私を取り囲んだあの人たちも、いったい誰を褒めていたんだ?)
大人になって無くなってしまう賞賛ならば、それは真に彼女に向けられた賞賛ではない。
(…………持て栄せるなら誰でも良かったのかもしれない。大人にはできることが、子供にはできなくて当たり前と思いたいのか? 如何でもいい。でも、皆がシャムと呼んで褒めていた存在が私でないなら、”私”はどこにいる?)
一人で悩んでも答は出なかった。疑念が極めて確信に近くなっても、彼女は振る舞いを変えなかった。あえて反抗したところで、彼女の望む答が出るとは思えなかった。どうしたらいいのか、自分がどうしたいのかさえ、分からなくなった。一人になると毅然としていられなくなった。誰かに相談するのは彼女の生き方が許さなかった。相談するということは迷いを他人に見せることだからだ。彼女は彼女自身をもって完璧でなくてはならない。でなければ崩れ落ちてしまう。何も残らなくなってしまう。
気がついたら、あの時刻、あの場所に来ていた。少年は既に待っていて、少女に向かって軽く手を振ってみせた。
「やあ。”君”は来るものと思っていたよ」
少女はあのときと同じように眉間に皺を寄せて、疑い深く少年を見た。彼は切っ掛けこそ彼女に与えたが、ここに来たのは他の誰でもなく彼女自身の意志であることを確かめるように。
「…………まだ、お前を信用したわけじゃない」
応えれば、一瞬は驚いて見開かれた少年の目が、楽しそうに細められる。
「素敵な喋り方だな、シャム。君はそうやっているのが一番きれいだ」
「ふざけているつもりか? これ以上私を苛々させるな」
「悪かった、でも本当のことだ。ここに来たっていうことは、親御さんを裏切る覚悟ができたと解釈していいな?」
「”私"に裏切られる人なんて最初から居ない」
そう、この男になびいたわけではない、ただ。少女は呟く。
ただ、この少年が彼女を”君”と呼んだから——それだけだ。