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pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
2026年06月22日 (Mon)
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2014年11月05日 (Wed)
二人が逃げだした後のヤナギさん


 ふたりが逃げ出した。
 力で捩じ伏せられると思っていた。幼い子供ならば、粘土のように柔軟に環境に適合するだろうと。力を持って、あの子供たちに自分の存在を神のように思わせるはずだった。それも態とらしい信仰じみたものではなく……、ごく自然に、当たり前のように存在する創造者であり、言うまでもなく、呼吸をするように仕えるべき存在として、幼い思考に刷り込もうとした。
 しかし意図とは裏腹に、女の子供は年々反抗的になっていくのを感じていた。そうなればなるほどに苦痛を与えた。うすうす、教育するには彼女は聡すぎたし、年齢もいきすぎていたのだとは勘づいていたが、止めることはできなかった。彼女を引き留めるには苦痛よりも同情を誘うことのほうが有効だとは分かっていたというのに。それに気付いた段階で、彼女に優しくし、今までしてきたことの赦しを請い……、優しく感じやすいこころの琴線に触れるようなことを伝えれば良かったのだ。そうしなかった結果がこれだ。彼女は自分だけに留まらず、あまつさえ一番小さな子供にも自分の考えを植え付け、いつしか何も知らなかったあの子供さえ男に反抗を示すようになっていた。男が彼にしようとしていたことを先取りされた形になる。もしももっと上手く立ち回れていたならば、女の子供に同情させ、彼ら二人を引き離して教育していたならば、女の子供は少なくとも仇なすことはなく、男の子供だけでも理想通りに教育しきることができただろうに。
 何故だろう。二つの氷像を目の前にして思う。
 一つは男と仮面をつけている子供たち、もう一つは男と仮面をつけていない子供たち。二つとも……、男が訳のわからないまま遮二無二彫ったものだった。こんなものは唯の氷の塊、刻み付けた刃の跡が作り出したもののかたちは幻想だ。いっときの望郷、くだらない、感情の揺らぎに過ぎない。人間という生き物は生きるために、時に理性に反したことを強制するもので、だからこそ、これは気の迷いだ。男が人間であるがゆえに成したことのひとつ。どれだけ非情になろうとも空腹になるしそこで食い物を求めない訳にはいかない。同じ事だ。
 ふと部屋の外からの気配を感じ、素早く二つの氷像を布で覆った。失礼します、と一言断って入って来たのは猫だった。
「取り逃がしました。申し訳ございません……、急遽、私とカーツで捜索に」
「…………放っておけ」
「……は、……」
 振り返らずとも分かる。猫はきっと呆然としているのだろう。猫はもっとも大人びて聡明で、おそらく男の内心を最も察している。うすうす、男の内心さえ察しているかもしれない。ふたりの子供が男にとって重要な存在であることを、最初から分かっていて、猫は男が放置を命じたことを、一瞬理解できなかったのだろう。
「聞こえなかったのか?」
「……何故、ですか」
「理由を問うのか。この私に」
「…………いえ、そのようなつもりは。畏まりました」
 知性の鋭い猫は下がった。もし犬であれば奴が喜びそうなことの一言や二言はくれてやっていたかもしれない。だが、猫には口先だけの言葉は通用しない——冷静であるのと同じだけ、疑り深いのだ。けれども幼い分、賢いだけのあの女の子供と違って、感情の機微にも聡く分別がある。決して出過ぎた真似をせず、したとしてもすぐさま撤回の意を示すだけで引き下がる。時には苦い思いをすることもあるが、おおむね男は猫のこういうところを気に入っていた。
 猫が出て行くと再び、男は布で覆われた氷像に向き直り、かぶりを振った。疲れているのだ。あのふたりを探すだけの気が無いだけだ。そんな筈がない……、探す気が起こらないなどと? あのふたりは羽根を持っているというのに。内心の声に耳を塞ぎ、男は自分に言い含めた。
(構うものか。その気になればあのふたりの居所などすぐに知れる。だからだ……、私は疲れているのだ……、それだけのことだ……)
 布で覆った二つの氷像、これでいいのだと男は思う。感傷も高揚も、人間であるがゆえのものは見えなくていい。だから覆う。黒に溶かす。そして男は氷像が、感情の揺らぎが暗がりと同化していることを知り、ようやく眠ることができる。
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