pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
こないだの「テディ」続き
イツキとカリン
イツキとカリン
この坊やは子供だが、馬鹿ではない。というのが少女の見た感じのところだった。初めて見たときの彼は、心底おもしろおかしくて堪らないというふうに笑っていた。本当に何にでも笑う子供だった。実際楽しかったのだろうと思う、子供は楽しくなければ笑わない。その証拠に、一度飽きたら坊やは家からもろくに出ないで退屈に苛ついている。苛立ちをどうしたらいいのか分からないのだ。
ただ頭の回転は速い。大人よりも賢いから、大人の賞賛を求めて躍起になったりしないし、賞賛される立場にすら飽き飽きするのだ。そのくせ考え方は子供のまんまだから、あんなふうにイイコを演出したり、テディ・ベアたるエドワードを憎々しげに見つめたりするのだ。少女も頭は悪くないほうだと自負はあるが、おそらく彼には劣るだろうと思う。三つも年上なのに。おそらく坊やは少なからず少女をも見下している、ただ、少女が他の人々と比べて一番ましだというだけで。
それでも少女がこの三つ年下の少年を気に入っているのは、やはり彼が子供だからだ。楽しいことが好きで、欲望に忠実。それが少女で、自分のすることを阻むものは人であれ物であれ嫌いだった。笑っていた少年は本当に楽しそうだった。何にでも笑っていたのは、何であれ自分が楽しいようにしていたからだ。そういうところが好きだった。楽しくなるために妥協をしないところが。
だからこそ彼女はチョコレート・ウェハースが好きだ。甘くって美味しい。坊やは安っぽいクリームなんて分かったような口を利くけれど(自分だってそんなに舌は肥えていないくせに)、やっぱりおいしいものはおいしいと思う。この味に飽きたのだと彼は言うけれど少女はそうは思わない。結局のところ甘えたなのだ、母親に構ってもらえないから、ささやかな抵抗をしてみているだけなのだと見ている。少女はそれを子供っぽいと思いながら、ニヤニヤして眺めている。
少年はそうしてつまらない意地のために快楽を掴み損ねているのだ。愉快になりたいのなら、こんなくそ忌々しいチョコレート・ウェハースはいいから、ビスケットでもオモチャでも、好きな物を注文すればいいのに。本当に欲しいものは手に入らないこと、分かっているくせに。ないものねだりをするものじゃないよ。少女は手に入らないものを欲しいとは思わない。そこが違うのだ。テディに八つ当たりしたって仕方が無い、チョコレート・ウェハースも然り。あんな砂糖菓子に罪があって堪るものか。ビスケットにしろケーキにしろ、菓子というものは甘くって美味しいだけだ。ならば食べてちょっとでもおいしい思いをしたほうが良いのにと思う。
今日も今日とて少年はむっつりと黙り込んでいる。がらがらの電車に揺られながら覗いた横顔はむくれて見える。母親にろくすっぽ心配してもらえなかったのだろうか、と少女は意地悪い気持ちで音もなく微笑む。彼は目を伏せてじっとしているから、笑った気配にすら気付かなかっただろう。
「今日も死ぬほど面白くなさそうな顔してるね」
「いつもと同じだよ」
「母上はなんて?」
「心配したよ。でも、行っていいって」
「なんだ、心配してもらえたの」
「ポーズだよ。ひとりで心配して、ひとりで納得してた」
「ポーズ? 誰に対して?」
「知るもんか」
投げやりに少年はぼやいた。それも言葉通りの意味ではなくて、ささやかな抵抗のひとつに過ぎなかったらしく、彼は続けた。
「そうやって自分に言い聞かせてるんだ。自分はちゃんと子供を心配してるんだって、思わないといけないんだよ。君には分からないだろうけど」
「あたいには分からないって? 生意気な口ききやがって」
少女の言葉遣いこそ乱暴ではあったが、その声色に棘はない。どちらかというと冗談めいた明るさを多く含んでいた。少年は溜息をついた。
「ボクにだって分からないさ。でも君はさ、なんというか、やっぱりちょっと変わってるよね。なんでも好き勝手してさ」
「楽しいことしかやりたくないだけさ。お前だってそうだろ」
「そりゃあね。でも自分のやりたいようにしてたら、色々面倒なこともあるんじゃない」
「アハハ、何それ」
「君と違って、ボクには失うものがたくさんあるんだ。好き勝手するにはリスクが高過ぎるだけの話だよ」
ふーん、じゃあさ。少女はにやり、猫のように目を細めて少年の顔を覗き込んだ。
「もし失うものがなかったら、するんだ?」
母親には美味しかった等とニコニコして宣っていながら、チョコレート・ウェハースを食べないで少女に処分させているのと同じように。あたかも大好きな菓子であるかのように見せかけておきながら、その裏でエドワードの微笑を憎々しげに睨んでいるのと同じように。
少女に見向きもせずに、少年は、そりゃそうさ、とつぶやいた。
「しないほうがどうかしてる」
「じゃあきっと気に入るよ」
「いきなりなに? 今日行くところの話?」
「そ。あたいにチョコレート・ウェハースを食べさせるより、ずっと面白いから」
少年はけげんそうな視線を向けてきた。チョコレート・ウェハースを拒絶しているということがどういうことなのか、きっと分かっていないのだ。そう思うと面白くて、少女はにやにや笑っていた。けれど教えてはやらない。こればっかりはやめられない。少女にとってのチョコレート・ウェハースはやはり、甘くって美味しいのだ。