pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
シルバーの出生を知ったヤナギ
攫ってすぐに子供たちに名前と年齢を尋ねた。ひどく怯えていて、答えなければ酷い目に合わされると思っていたのか、少女は声を振り絞って五歳と答え、少年と呼ぶにも幼過ぎる子供のほうは、二歳と答えた。名前は順に、ブルーとシルバーと言った。
頭脳の優れた子供は嫌いだ。男は珍しく感情的に、そう思っていた。あの五歳の少女、彼女はホウオウが連れてきただけあって、才能に溢れ、そして聡明だ——過ぎる程に。よく口がまわる。よく喋る。驚異的なほどに話が上手い。順序立て、論理的かつ明快な話し方をする。家のことを確りと記憶している。家の構造や気に入りの家具の細部まで話す。ものにするには骨が折れるだろう……、もしかすると、ものにならないかもしれない。だが手放すには惜しい才知だった。諸刃の剣だった。
もう一方の二歳の子は、最初は負けず劣らず泣き喚いたものの、しばらくするとすっかりこの環境に馴染んだ。少女とは真逆で喋らなかった。ポケットに入っていたモンスターボールからニューラを出して、よく一緒に遊んでいる。攫ったあの日のうちに怯える二人の子供に年齢を尋ねたときには、二歳と答えた。喋れないわけではないのだろうが。自分のことすらすっかり忘れたように、平然としている様子に期待が膨らんだ。植え付けるのは容易い。男の気に入ったのはそれだけでなく、珍しい銀の瞳も気に入った。そして色相が無い。無いということは与えることができる。誰よりも容易く誰よりも完全に、黒に染まるだろう。
泣いていた女の子供はやがて諦めとともに泣き止み、泣いていた男の子供は泣くことを忘れた。だから頃合いを見計らって部屋から出し、養育を始めた。女の子供は表情を硬くして従い、男の子供はふしぎそうな顔で男を見上げながら言うことを聞いた。けれども男は二人とも同じように手酷く扱った。女の子供が無益なことをし出したときには強く禁止し、男の子供が無邪気ゆえに笑い声を上げたときなども禁止した。やがて女の子供はあれだけ喋っていたのが嘘のように喋らなくなり、男の子供は大人しくなった。
何が引き金となったのかは分からないが、ジムリーダーの職務をこなしている最中に男は不意に思い出した。全国のジムリーダー集会の際に、偶然耳にした噂話を。
“カントー最強のジムリーダーであるサカキが、トキワの森の入口に立っていた赤髪の小さな男の子とニューラと一緒に森に入って行った”
トキワに行っていた友人の話だ、と断ってはいたが……十分だった。笑い出したくなるのを堪えなければならないほどだった。赤い髪の男の子とニューラ、そしてトキワの森。
カントー最強と謳われたジムリーダーといえど、ろくに面識はない。個人的ないざこざがあったわけでもない。いい気味だ、と思うはずもない。それでも笑い出したくなったのは、運命が味方してくれたとでも思ったのか。否。実際に親の顔を見たことで、人の子を、心ある親から子を奪ったのだ、しかも今やあの子は父親を呼ぶことすら忘れたのだ——記憶も、言葉も、愛情も。本当の意味で根こそぎ奪い切ったのだという事実に直面し、自分はすっかり気が狂っているらしいということを自覚した途端に、それが堪らなく可笑しくなったのだ。
男がしていることは……、あのときと同じなのだ。かけがえのない、愛しい、二つの存在に死をもたらしたときと。
家に戻り、温厚なジムリーダーから唯のヤナギに戻ったとき、彼は腹がよじれるほど笑った。窒息するのではないかと思うほどに笑った。笑って、笑って、笑い続けた。しばらく笑い転げていると、少しずつ滲むように涙が込み上げて来た。だから泣きながら声を上げて笑った。笑いながら、顔中濡らして泣いていた。