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pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
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2014年11月07日 (Fri)
かつて小さく弱かった二人とやりあった後のカリンとイツキ
見ようと思えばイツキ×カリンに見えなくもない


「も〜、あいつらってばマジなんだもんな〜! ちぇっ!」
 森の奥にて、逃げるときに軽く捻ったらしい足首を摩りながら、イツキが口を尖らせている。それを雑音のように聞き流しながら、カリンはいつの間にか出来ていた腕のかすり傷を眺めていた。手首の付け根から肘にかけて、細く長く伸びる傷は鋭い痛みを孕んでいる。血の一滴すら落ちないそのくせ……、痛覚が訴えかけてくる感覚はいやに明敏だ。ねえ聞いてる? といつものお喋りを黙らせようともせず、カリンはじっと腕を見つめていた。傷口からじわりと滲む熱。久しぶりすぎて……、ひどく不思議な気分だった。
 知らないうちに付いていた傷。あの幸せだった少女、かつてカリンがその手でどん底に引き摺り下ろした少女との戦いの中で付いたのだろうとカリンの僅かばかりの理性は主張する。けれどもカリン自身は、この傷がずっと昔からあったような気がしてならなかった。ずっとここにあったのに、いまになって初めて気付いたような。そんな気分だった。
「どうしたのさ、珍しく真面目な顔しちゃって」
 カリンの様子を怪訝に思ったらしいイツキが覗き込んでくる。カリンは視線をずらして彼を見た。久々にまじまじと眺めたその顔は、思っていたよりもずっとあどけないような気がした。ああ、と溜息が洩れた。もはやカリンには彼だけ、彼だけが話をまともに聞いてくれて、彼だけがそばにいてくれる。気違いカリンと一緒にいてくれる。見た目よりもずっと計算高い子供だった彼のこと、カリンといるのだって打算が混じっていないとも限らない、けれど何であれ、一緒にいてくれるのは彼だけ、テディを憎々しげに睨んでいるあの少年だけだということを、不意に悟ったのだった。まるで我に返ったようだった。そのせいだろうか。いまはひどく淋しい。
「……分からないよ。何が何だか」
 疲れたように吐き出して、カリンは項垂れ、呟いた。
「あの子らを虐めていたときは、淋しくなんてなかったのになあ……」
「淋しい? カリン、淋しいの?」
 思わず洩れた独り言に、素っ頓狂な声を上げて突っ込んでくるイツキに虫を追い払う仕草で辟易を示したが、あまり効果はなかった。イツキは足首の痛みも忘れたように囃し立て、最後に声を張り上げて締めくくった。
「淋しいなんて、カリンには絶対に分からないと思ってたのに!!」
「喧しい。だからどうだっていうんだい、大したことじゃないだろ」
「そりゃあねえ」
 イツキは不意に真面目な顔に戻って大きく頷いてみせたが、直後、再び抑えきれないようににんまりと笑った。
「でもさ、面白いよ。ボクのことを鼻で笑っていたカリンが、ボクとおんなじことで悩んでいるんだからさ!」
 それから再び爆発したようにけたけた笑い出すイツキに溜息をつきながらも、カリンはよわよわしく微笑んだ。
「いまは淋しくなくなったってのかい」
「まあ、君がいるからね。もうエドワード——テディとすれ違ったって見てみぬふりくらいできるさ」
「あたいじゃなくたって……何だって良かったんだろ。”このくそ忌々しいチョコレート・クリーム・サンドを食べなくて済む"んだったら」
 意地悪く、カリンが小さな子供だった彼の口まねをすれば、イツキは僅かに赤くなって、そんなこと覚えてなくてもさあ……、と小さな声で愚痴を洩らした。それを見てカリンは朗らかに声を上げて笑った。
「だってあんた子供のくせに、”くそ忌々しい”だなんて! 今時文学被れの小説だってそんな言い回しはないだろうさ!」
 完全にやり込められた体で、イツキは悔しそうに黙っていた。カリンの笑いが過ぎ去っても彼はそっぽを向いたまま黙っていた。ともかくイツキがまともに歩けるようになるまでは、この丁度いい物陰から動くわけにはいかなかったが、こんなにも長く続く沈黙は初めてだった。いつもイツキが気の違ったように喋りまくるから無用の長物だったはずだ。しかし少なくとも、カリンにとってけして居づらくはなかった。これが自分たちの本来の姿であるような錯覚さえ覚えながら、心地よく静けさに浸っていた。
 十分か一時間か。時間の感覚が麻痺してきたころに、不意にイツキが顔を上げ、ぐっと立ち上がった。斜め後ろから除く横顔はなんだかひどくまじめな顔をしているように見えた。
「——でも、いまは、君でよかったと思ってるよ……」
 掠めるように小さく囁いた。幻聴だったかもしれない。イツキはすぐさま真面目な表情を引っ込めて、楽しそうに笑いながら振り返った。
「次はどこに行こうか?」
 そうだ。”あたい”たちにはそれしかない。
 楽しいことを追いかけ回す、そのためならどんなことだってする。隣町にサーカスが来ていると聞けば隣町に行き、隣の地方に遊園地が出来たと聞けば他の地方へ行く。おんなじだ。楽しいことがなくなったなら、楽しいことがある場所へ行けばいい。
 巨大な鳥の上、あの日と同じ少女の眼差しを思い出す。そこにかつての日々の怨恨は見出せなかった。この手で引き摺り降ろしたはずの少女は、最早手の届かないところまで行ってしまった。カリンではもう彼女を折ることはできない。再び引き寄せることはできない。戦いの中で肌で感じた。執着も嫉妬も嘘のように消えてしまった。何をしたって捩じ曲げる事ができないのなら、きっともう面白くない。イツキも……同じ気持ちだろう。
「どこだっていいさ。歩いていれば、どこかしらに辿り着くだろう」
 過去はもういない。カリンが過去に戻ることはない。カリンの世界はもう遥か彼方だ。恐れることは何もない。
 たったひとつの歪な淋しさも、楽しいことで紛らわせることを知っていた。二人して、ただそれだけを知っていた。
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