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pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
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2014年11月07日 (Fri)
ヤナギさんとシルバー、それから少年
いかりのみずうみにて


 最も幼い子供について、男はあまり考えたことが無かった。あの子供について、犬の単純さを良くも悪くも思ったり、鼬どもの残虐性にいささかの呆れを覚えるような感覚を持たなかった。あの子供はまっさらだったのだ。何も持たなかった。何も持たないでいて、それでいて満たされている。ある日突然何もかもを根こそぎ無くしても、無くしたままを受け容れた。薄く色づいていた記憶も言葉も感情も、軟らかなあまりに蒸発したのだ。小さな硝子の器は空になった。もしかすると内側は傷ついているのかもしれない。細い傷痕が幾筋にも渡って刻まれているかもしれない。それでもあの子の外側は一点の陰りもなく滑らかで美しかった。何で満たそうと男の思うがままだったが、黒にしようと男は決めていた。男に必要なのはそれだけだったからだ。しかし男の目論みは外れた。それよりも先に器は満たされた。空の青。水の青。あの小娘の色。ろくに形も持たなかった、あの子供については何の感情も持っていない。そう思っていた——再び目にするまでは。
 地に伏したあの子供。赤い髪と銀の瞳。これがあの子供、透明だったあの子供なのだ、と思うと、心の底から、ふつふつと苛立ちが込み上げて来る。
「何が目的だ……——復讐か?」
 あの小娘の。応えるように鋭い光を放つその眼が不快だった。確固たる意志を持った、ぎらついた眼差し。それも小娘の意志なのか。お前は自分のことではなく、小娘が痛めつけられるのが気に食わなかったのだろう。限りなく透明に近かったあの子供は、男にもっとも近付いたはずだった、否、それが彼の本来あるべき姿だったのだ。
 憎しみか、怒りか。男は一時的に感情に支配された。ギャラドスの群れ。いかりのみずうみ。既に器を満たされた子供——“シルバー”。
 氷に覆われ静寂に沈んだ湖。倒れ込んでいる子供。見れば見るほどに唯の子供だった……、空の器だったあのときのまま。このまま連れ帰って再教育すれば、ものになるのではないかと疑うほどに。
 しかし間違いだ。この子供は間違いの産物だ。そして男を手酷く裏切ってくれた。自分では何も知りようもなかったというのに。
(…………最早、お前に用は無い)
 男は口の中だけで呟き、口角を上げた。彼はこのとき確かに憎しみを愉しんでいた。そして、砕いた氷とともに子供を湖に沈めた。同時に男の中で、何かが失われる音がした。

「……もう勝負はついていたはずだぜ……どうして止めを刺した?」

 水飛沫がかかるのも構わず、ゆっくりと目線を横に移動する。その先でひとりの少年が、怒気に満ちた視線で男を睨みつけていた。
 どうして、だと。笑わせる。
 要らないものを処分するのは、当然のことだ。
 喉の奥から込み上げて来る嘲笑は誰に向けてのものだったろう。最早男は笑いを鎮める術を持たなかった。何故だろう、何か大切なものを失った気がするのは? それなのにどうしてこんなに可笑しいのだろう? 何が要らないというのだろう。今までだって、要らないものは全部捨ててきた。友情も愛情も年月も生活も、自分の全てを過去に捧げてきた。これも今更、何もかもが今更な話だというのに、何を思い煩うことがあろう。
 底の見えない愉悦、あるいは腹立ちにか、その少年をも湖に沈めた。ついでのようなものだった。思った通り……、もう、心は動かなかった。
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