pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
少年とお嬢様、天才達
名前は明示してないですが性懲りもなく過去模造
名前は明示してないですが性懲りもなく過去模造
少年少女は己の栄華に酔いしれていた。幼子と大人とのあいだの時機に、不特定多数のひとびとから与えられる賞賛は脳に快く響いた。同年代の他のこどもたちよりも、自分たちが遥かに幸運に恵まれていて、これからも続くものだと信じて疑わなかった。現在の幸福、目上の人々の物差しではかられた幸福が、未来すら約束してくれるものだと思っていた。
「おめでとう。まあ、君が優勝するものとは思っていたよ」
雨のように浴びせられた賞賛の嵐から何とか抜け出した少女を待っていたのは、背の高い少年だった。少女はけげんそうに、まじまじとその姿を見つめた。どこかで見たことがあるような気がしたのだ。間もなく不意に、三年前に見た雑誌の巻頭インタビューに載っていたカラー写真が浮かんで、少女は息を呑んだ。
「……あなたは、三年前のグランプリの……?」
「知っていたのか」
一年に一度開催される、ポケモンバトルのジュニア・グランプリ。十五歳以下を対象とした、トーナメント式のポケモンバトル大会にして、ポケモンリーグに比べると知名度は低いものの、地方戦で勝ち抜いた子供達が集結する全国大会である。参加層は学生が中心であり、優勝したところで名実ともにジュニア・チャンピオンであるというのはいささか苦しいかもしれない(学生でなくとも優秀なトレーナーは多々いる)が、少なくとも肩書きは手に入れられるわけである。少女は若干九才にして、その栄光を手にした幸運と才能に恵まれた子供だった。
「ありがとうございます。光栄です」
「ずいぶん堅苦しい喋り方をするんだな、誰に教わったんだ?」
器用にも細められた片目に嘲笑の色を感じ取って、少女はむっとしたが……、少なくとも表面上はそれを押し殺して、口元に微笑さえ浮かべて応じた。
「私なりに礼を尽くしただけのこと。誤解されたなら謝りますわ」
「私なり、ねえ。本当にそれは君の意志なのか?」
「……はい?」
少女が弾かれたように顔を上げ、伏し目がちだったまなざしを少年に向けると、彼は不敵に笑っている。居心地が悪くなって、少女は再び目を逸らそうとしたのに、できなかった。
「この大会でグランプリを獲得したのだって同じだ。まさか、ポケモンバトルが好きだというだけで此処まで来たとは言わないだろうな?」
何を言われているのか、分からなかった。初対面で用件も明かさず個人的なことを言及するのはあまりに礼を欠いていると、苦言のひとつでも呈すればよかったのかもしれない。けれど言葉が出てこなかった。何も敵などないと言わんばかりに不敵に笑うこの男が、こわくなったのかもしれない。
「その喋り方も、大会で優勝しようとしたのも、周りの大人が、そう言ったからだろう」
少年はにやにや笑いながら囁いた。もはや少女も険しい顔つきを隠そうとはしなかったが、それでも忍耐強く、声を絞り出すように応える。
「……そうだとして……、あなたに何の関係があるのです?」
「不安じゃないのか? 奴らは君が思っているほどすごい人間じゃなのさ。さっきまで馬鹿の一つ覚えみたいに、好き勝手に君の将来を語っていたギャラリーやインタビュアは、君の将来に何の責任も持ってくれないんだぜ。もちろん君の過保護な親でさえね。ましてや、ジュニア・グランプリなんて井の中の蛙だって誰もが分かっているくせに、君にそう教えてくれる人なんて誰一人いなかったんじゃないのか? 偉い偉いって囃し立てるだけ囃し立てておいて、誰も本当に君のことなんか考えてくれちゃいない」
「…………」
そうなのだろうか、と少女は胸の内で呟いた。確かに、ジュニア・グランプリは参加者が少なく知名度も低く、それほど実を伴う大会であることは承知していた。けれどそれは確かに誰かに教えられたものではなく……、彼女の聡明さが彼女に教えた。何てったって全国一だからね。口を揃えて誰もが誉め称えた。全国大会なのは確かだ、けれど、大人の中にはもっと強いトレーナーがいるだろう、それに、年齢制限なしの本当の全国大会たるポケモンリーグには、十八歳以下も多く参戦し、中には表彰台にのぼるトレーナーもいるという。反論すると、大人なんだから子供よりも強いのは当たり前だし、ポケモンリーグで好成績を残すこどもたちは本当に特別な、きっと百万人に一人とかなのだから、例外として考えなくていい、と言われた。大人たちがそう言うのだから、きっとそうなのだろうと思っていた。
けれど実際はどうだ、ジュニア・グランプリで優勝したところで、結局どのくらい強いのか、全国で何番目なのか? 誰ひとりだって教えてくれはしない。こんなに強ければ将来はジムリーダーかしらと笑った親の顔が浮かび、不意に憎らしく思った。ジュニア・グランプリのチャンピオンは一年にひとり誕生するのだから、優勝すればなれるというならそもそもジムリーダーの頭数が足りなくなるだろう。勤続年数で交代する制度があるわけでもないのに。
「もし礼儀にうるさい親御さんを裏切る覚悟があるなら、一週間後、今と同じ時刻にまた来いよ。いい話があるんだ」
言い残して踵を返した少年の姿が見えなくなってからも、少女は何か難しい顔をしたまま立ち尽くしていた。