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pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
2026年06月22日 (Mon)
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2013年09月22日 (Sun)
水槽の少女(詳しくはこちら)のシルバーサイドをゴールド視点で。

1

「……あの野郎」
 開口一番。
 何が引き金になったのか知らないが、普通にゲーセン帰りに駄弁ってる最中に、ダチ公がそう呟いた。そりゃもうおっそろしー声で。ああこいつの父ちゃんのロケット団の首領だったっけなんて、思わず遠い目をしてしまった。背後に黒いオーラを燻らせるこいつの、未来の首領姿が見えるような気がした……っと、縁起でもねえ。
「いきなりどうしたよ」
 若干引き気味ながらも尋ねてみる。なんだかんだでこいつはすっかり丸くなっちまって、最近はずいぶんと穏やかな気性(こっちが素なのか?)になってたから、若干びびりながら。隣からおそるおそる表情を覗き込むと、人ひとり殺せそうな視線が地面に突き立っていた。
 ぎゃあああこれまじでやべえって。
 内心で悲鳴を上げつつも、固唾を呑んで静かな怒りを募らせているダチ公の出方をうかがう。俺は早くも、逃げだすタイミングを失ったことを後悔していた。
 ダチ公は無言でポケギアを操作しはじめた。コガネシティの人々の喧噪の中で、なんかこいつの周りだけ異空間な感じがする。明らかにカタギでない感じ。血だろこれ。
「……どうしてくれようか」
 不意にダチ公が顔を上げて呟いた。静かな声、っていうかすうっと底冷えするような感じだ。うわあ夏に良いんじゃねえのこれ、電気代も節約できて一石二鳥ってか。ってそんなこと考えてる場合じゃねーよこれどうしたらいいの。
「ちょ、お前殺人はやべえって……!」
 マジで殺気出してたもんだったから、思わず小声で呟いた。
「……殺人?」
「へ?」
 俺たちは顔を見合わせた。たぶん、お互いに今年一番に間抜けな顔をしていたと思う。


2

「あの野郎って、グリーン先輩のことかよ」
 とりあえず近場のファーストフード店に入って腰を落ち着け、話を聞くこと十分。とりあえず俺が予想してたほど酷いことではなかった。多分。
「グリーン先輩に告白されたブルー先輩が、レッド先輩とデートに行くと言い出したと」
「さんざん手間をかけさせておきながらこの体たらくだ。腹も立つ」
「おいおいおい理不尽だろそれ!?」
 いつも冷静で論理的なはずのダチ公だったが、義姉が関わると全くもって筋の通らないことを主張する。で、怖い。いろいろと。
 何が理不尽かっつうと、なんとまあ、グリーン先輩がブルー先輩に想いを寄せていることに一番最初に気付いたのがこのダチ公だったわけだ。で、ブルー先輩大好きなこいつは、ブルー先輩のほうも満更でなく思っていることにもすぐさま気付いてしまって、まあ嫉妬とか色々と大変な思いもしたようだけれども、結局二人を応援することにしたらしい。ただ、間もなく二人の進展にはでっかい障害があるってことが分かった。
 ……鈍感なんだ。グリーン先輩が。
 なんつーか意外な話、グリーン先輩は自分のことに関してはえらく鈍感だった。人のことには随分目敏いのにな。まあ確かに言動を見てると、なんとなくブルー先輩のことを手のかかる姉か妹みたいに扱ってるような節がある。それでこのダチ公は憤慨して、ここ数年というもの応援するどころかさりげなく背中を押すくらいのことをやってのけていたわけだ。うん。いい奴なんだこいつ。けどまあそれも誰に頼まれたってわけでもないので、それに関して文句を言うのは理不尽だろうって話。
「けど、なんでレッド先輩とデートなんて……もしかしてブルー先輩が好きだったのってレッド先輩のほうだったんじゃねえの?」
 ダチ公がグリーン先輩に対して怒る論理は破綻しているとしても、おかしな話だ。けど、ダチ公はそれは無いだろう、と断言した。
「……ただ、多分……昔、姉さんはレッドさんのことを好きだったから、未練がないことを、確かめたいんだと思う」
「……そこまで分かってんなら、なんでグリーン先輩に」
「…………」
 ダチ公は口を閉ざした。それ以上問いつめるのも何となく気が引けて、俺たちは無言でジュースを啜った。


3


「……姉さんが、レッドさんを諦めた理由」
 ファーストフード店を出て、御用達のゲームショップに行くかといったところで、不意にダチ公が呟いた。道を歩く人の声にかき消されてしまいそうなほど、低く微かな声だったけれど、俺は聞いていることを示すためにダチ公のほうに視線をやる。
「俺のためだったんだ」
「お前の?」
「姉さんは、仮面の男への復讐を、俺一人にさせたくなかったんだ」
 ひとりごとのように淡々と言葉を紡ぐ横顔は、それでもどこか思い詰めているようで、なんだか溜息を吐き出したい心持ちになった。面の皮が厚いかと思えば、妙なところで優しいからなこいつ。
「気にしてんのか?」
「……」
「それでグリーン先輩に八つ当たりか」
 うるさい、と俯いたダチ公から消え入りそうな声が聞こえた。俺はいま、相当めずらしいもんを目にしている。こいつ、ブルー先輩やクリスやグリーン先輩やらの前では物わかりのいい顔してやがるくせに、まあ。
「おまえさあ、クリスとかの前じゃかっこつけてるくせに意外と」
「……何がおかしい」
 じっとりと睨んでくるダチ公。鋭い視線も今までのやり取りのせいで形無しで、なんだこれ笑いしかこみ上げてこねえ。しばらく笑っていたら、ふとダチ公が視線を落とした。あ、やっべ度が過ぎたと思って、慌てて笑いを引っ込める。
「悪かった、すねんなよ」
「……拗ねていない」
「んな怒るなって。こういう会話も楽しむもんだぜ、ダチ公」
「知るか」
 あくまでつっけんどんな態度を貫くこいつ。けど、大して怒ってるわけじゃないことはまあ分かるってもんで、口先だけで宥めつつ、その場の空気を楽しんでいた。


4


「んで、お前どうしたいんだよ」
 ゲームショップの店内で新しいキューを物色しながら、一言。
 ダチ公は俺が見ている棚のちょうど向こうのカードゲームコーナーにいる。心理戦を交えるビリヤードならば俺のほうが優位に立つことができても、ここ一番の運が戦局を左右するカードゲームではあいつには勝てない。心理戦の要素の大きいダウトでも俺の勝率はいいとこ四割、運による要素の大きいポーカーなんぞはほとんどあいつに勝ったことがない。しかもここ一番に強いのか、何かしらを賭けるともなると滅法強い。そういえばブルー先輩も賭け事にはものすごく強い。この姉弟のことだからもしやイカサマでもしてんじゃねえかと思ったこともあったが、少なくともダチ公はイカサマも上手いが、それ以前に素で強かった。
「……デート帰りの姉さんに、グリーン先輩をけしかける」
「うおい!?」
 思わず叫んだ。五月蝿いとは言えない店内に俺の声が響いて、ちょっと周りから白い目で見られた。ついでに金網の棚の向こうから、銀の瞳が呆れた目をしていた。っておい。なんでお前までそう冷めた目で俺を見てるんだよ、誰のせいだ。
「気でも狂ったのか? 修羅場突入が目に見えてるじゃねえか」
「知るか。姉さんを任せるんだ、そのくらい乗り越えられる男じゃなければ認めない」
「……はあ。最終試験ってことかよ」
 認めてなかったっつうなら、今までのさりげないプッシュは何だったんだよ。
 そう突っ込みたいのは山々だったが、なんかもう疲れた。多分あれだ、こいつもうグリーン先輩がブルー先輩に告白したって聞いて内心嫉妬轟々でちょっと頭おかしくなってるだけなんだ。うん。たぶんそうだ。
 ちょっと頭冷えれば、いつもの沈着なダチ公に戻ってくれるはず……、と、俺たちは互いに口を閉じて黙々と商品棚の物色を再開した。


5

「力を貸してほしい」
 それから暫くして、何の音沙汰もないからすっかりダチ公のことは忘れていたんだけれども、ある日突然ダチ公から電話があった。で、いきなりそんなことを言うもんだからびっくりしちまって、まあとりあえず話を聞いたんだが。
「……お前、本気だったのかよ」
 ダチ公はなんと、デート帰りのブルー先輩にグリーン先輩をけしかける計画の片棒を担げ、と俺に言ってきたのである。まさかだ。まさか、本気だったとは思ってなかった。
 いくらグリーン先輩の察しがよくたって、一歩間違えれば修羅場突入、ブルー先輩が手ひどく傷つくことにもなりかねない。いくらグリーン先輩のことが憎かろうと、このダチ公がブルー先輩にそんな仕打ちをすることを望んでいるとは思えない。と、いうことは、だ。
「……本気なんだな」
 確認するように呟いた言葉は、先ほどの台詞とは違う意味。すなわち、ダチ公の野郎は、マジでブルー先輩とグリーン先輩に対して、最後の後押しをしてやろうって考えてるってこった。けど。
「……本当にいいんだな? もしお前がその気なら、今からだってグリーン先輩を敵に回してお前のバックアップしてやるぜ?」
 一瞬呆気にとられたような沈黙。の後、ポケギアの向こうで微かに笑った声が聞こえた。
「いい、要らない。……ありがとう。ゴールド」
 いつものダチ公の声とは思えないような優しい声が、そういった。どんな顔をしてやがるのか、思わず拝んでみたいと思っちまった。


6

 ダチ公は、ブルー先輩のことが好きだった。
 弟としてはもちろん、恋愛対象としても。とにかく、ダチ公はブルー先輩のことが好きだった。そういうのって、長く一緒にいればよく分かる。俺が気付いたときには、あいつは自分の気持ちを自覚していながら既にグリーン先輩のフォローをしていた。なんでだよ、って一度だけ聞いてみたら、グリーン先輩の隣なら、姉さんは幸せになれるかもしれない、とぽつりとあいつは答えた。お前はブルー先輩を幸せにしてやれる自信が無いのか? 続けて尋ねたら、無理だ、ってきっぱりした返事が返ってきた。
「姉さんはずっと……、『およめさん』に憧れていたから」
 弟である限り結婚はできないし、結婚をしてしまったなら弟ではいられない。
「俺が姉さんと結婚したら、姉さんの弟はどこにいってしまうんだ?」
 そう言ってダチ公はかなしそうに微笑んだ。あいつは、ブルー先輩の弟を奪うことができなかった。あいつの望んだ未来は、『およめさん』になったブルー先輩、そしてその傍に弟として自分が存在することだったんだ。


7

「黙れ」
 開口一番。
 いやいやそんな生やさしいもんじゃなくて、久々に顔を合わせてちょっと声かけてやろうと思った矢先に、これ。まだ何も喋ってないんですけどどうよこの台詞。理不尽にもほどがあるだろ。
 酷く苛立った様子のまま素通りしようとするそいつの腕を捕まえて、なんとか宥め賺してどうしたよって訊いてやる俺もどうかと思うけど。あっれこんなお人好しだったけか俺。聞き出してみれば、なんだそんなことかを通り越してあきれかえった。おいおい。なんつう矛盾した話だ、そりゃ。
「………お前さあ、馬鹿だろ」
 お前にいわれたくない、といつもは即座に反駁してくるそいつが黙り込んだ。自覚はあるらしい。だって、応援するどころか背中を押しまくってたんだぜこいつ。こいつの義姉ちゃんと、グリーン先輩の仲を。仙人っつーか、普通に立ってるだけでも一センチくらい浮いてますみたいな、浮世離れしたような顔して、案外こいつも人間くさい。人間くさくなった、のか? 良かったのか。うん、良かったんだろ。
「だから言ったじゃねーか、本当にいいのかって。後悔してねえんだろ?」
「後悔はしてない」
「だったらなんでそんな機嫌悪いんだよ」
「後悔してないのと腹立たしいのとはまた別問題だ」
「あーあ、お前もしょーもねえな。タウリナーΩセットおごってやるから機嫌直せよ」
「子供扱いするな」
「子供だろーが」
 弟としては完璧でも、ダチとしては案外しょーもないこいつ。ブルー先輩よ、こいつのためにもキッチリ幸せになってくれよな。そんでグリーン先輩、御愁傷様。ブルー先輩を泣かせようものなら、一生月の無い夜にびくびくする羽目になるだろうよ。
 ダチ公の子供っぽさを笑いながら、俺たちは連れ立って街を歩く。なんだかんだいいながら、こんな日常がああ幸せだなって思う。街を見下ろす青い空も、今日ばかりは笑っているような気がした。


おまけ

「もしもし」
『グリーン先輩、すぐにセキチク郊外のテーマパークまで来てください。姉さんが、』
「シルバー? おい、どうした」
『姉さんが狙われているんです、俺も向かっているところなので、入り口で落ち合うということで』
「ブルーが? 分かった、すぐに行く」
『先輩』
「なんだ」
『…………姉さんを幸せにするって、約束してください』
「な…………おい、……切れた」

 ***

「それにしたって、よく誤解しなかったわねアンタ」
「……幸せにするって約束させられたからな」
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