別に大したことじゃねえ。ゴールドが自分を宥めるように、声に出して呟く。続けて、からからと笑う。乾いて、温度のない笑い声だった。シルバーは黙ってそれを見ていた。距離を取って、すこし目を伏せて、ゴールドが座り込んでいるあたりをただ、眺めていた。夕陽が西の空を鮮烈なほどに染め上げて、氷に覆われた黒い木々の合間から差し込む斜光は目に痛いくらい赤い。その赤い光がくろぐろとした森の樹氷と交差する。外気は痛いほどに冷たい。
口元だけに半端な笑みを浮かべたまま、ゴールドは雪に覆われた地べたに視線を落とした。その手がゆらりと持ち上がり、人差し指と中指で、みずからの喉仏を上から下へとなぞる。しばらくそれを繰り返していたが、不意に薄い皮膚に爪が立てられて、喉仏を抉りとろうとするかのように力のこもった指先が、下へ。傷つけようとしたその爪先を受け止めた薄い皮膚に、赤らんだ引っ掻き痕が浮かび上がる。
高いところでは、巨大な鳥の影が旋回していた。遠く悲鳴じみた鳴き声が、稲妻のように空を劈く。
巨岩に背をもたせて、気怠そうに佇んでいたシルバーの視線が、ゴールドが腰を下ろしている地べたから、そろりそろり這うようにして、横に移動する。血の混じった粘液でべとつく卵の殻の欠片。鼻先を掠める腐臭。
「ゴールド」
「ア、なに? 心配してくれてんの」
振り返ったゴールドの頬は、血で汚れていた。片手には、つい先ほど生まれ損なった、いのちの残骸がある。まだ温かそうなそれを手の中に持った少年がわらって、掌を傾ける。ずるり、粘液の糸を引いて、それは地べたに落ちた。
命という形を取る前に壊れてしまった、未完成のなにか。重力はいとも容易くそのかたちを壊してしまった。やさしい掌から滑り落ちたら最後、地べたと重力に押し潰されて、それは自らの輪郭を見失い、ぐちゃぐちゃに折り重ねられて、凍りつき、最後にはただ残される。
みるみるうちに、陽が沈んでいく。西の空を染めていた朱色は、夜の黒にじわじわと塗りつぶされ、やがて太陽は地平線の当たりに僅かな光の名残を残して深い眠りにつく。
「よくあるこった、気にすんな」
乾いた声で笑ったゴールドが立ち上がって、スニーカーの先で土をかけた。黙ったまま遠目にそれを眺めているシルバーには、うすく砂埃に覆われたそれが、最期の呼吸をした音が聞こえたような気がした。