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pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
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2014年11月08日 (Sat)
さいごの

とりあえずここで一区切りです


 その瞬間に彼は……、仮面の男としてでも、ジムリーダーとしてでもなく、ひとりの男として存在していた。頭髪の黒い、若干気難しい性質を持ち合わせてはいたが、身体も心も確かに瑞々しい、ひとりの人としてその場に居合わせていた。
 幾度となく夢見た光景が目の前にあった。実現を志していながら、いざそのときを迎えたらいったい自分はどうなってしまうだろうと気まぐれに考えたこともあった。そんなことはどうでもいいことだった。しかしいま、男は薄らと無意識に予期していた不安や虚しさが忍び寄ってくる気配は微塵もないことを感じていた。空を抱えた器が満たされたことを知り、枯れることを知らずに身体の奥底から涌き上がってくる喜びの感情に支配された。同時に男は、自分がここで死ぬということを悟った——それは身体が危機を察して発する本能的な警告ではなく、己の全ての死そのものだった。彼は彼としてしか存在し得ず、それは罪を悔い、あらゆるものを燔祭として捧げ罪の清算を請うた矮小な一人の男の姿だった。願っていたのは贖罪ではなく、清算だった——全てを無かったことにする。あの日の罪が無かったことになれば、それ以来の男もまた無かったことになるのだ。彼の生涯は淡雪のように消え、残るものは何もないだろう。だからこそ彼は、己の全てが死ぬことを悟ったのだ。しかし彼は、矮小な男である”彼”の成し遂げるべきことはすべて完結した。そのことが彼に無上の幸福感をもたらしていた。
 懐かしい歌が流れている。赦しの歌だ。すべてが清算されたいま、男はようやくそれを受け容れることができた。男は苦しみ続けた過去の自分を憐れみ、同情することを自分に許した。彼が唯一捧げることのできなかった、罪を犯すまでの過去の思い出のひとつひとつが鮮やかに脳裏に蘇った。罪を犯した日の前と後でふたつに分断されてしまった時間が融合する。その瞬間に、彼は自らが誰であるかを理解した。
 驚くほど彼は穏やかな心持ちで、目の前の少年……、彼の野望を阻止しようとしたこどもを眺めることができた。見たところ何の変哲もない少年に見える。あの赤髪のこどもの、銀の瞳の色の無いことを見てとったときのような特別な印象を、男には何ら与えなかった。それなのに何故、男の野望を彼が阻止したのか。偶然と言ってしまえばそれまでであるし、努力や費やした時間からも時に裏切られることを知っているとはいえ、この少年は男の生涯の大部分、彼が生まれるよりも遥かに昔から男が焦がれていた望みの実現と、殆ど同等のところまで上り詰め、そしていま同じ場所に存在しているということが、どうにも特別な力が作用しているように思えてならなかった。加えて、馬鹿だとも思った。ただの少年には関係のないことだ。どうでもいいことにわざわざ首を突っ込んで、こんな時の狭間まで飛び込んでくるなど。
 ああ、しかし、私も同じなのだ。
 男は思った。世間一般に考えれば、男の過ちなど男自身の認識よりも遥かに軽く、世界全体から眺めれば尚更、幾多繰り返されて来た日常のほんの一部に過ぎないのだろう。仕方のないことだったのだ、そもそも、失ったから何だというのだろう? 世界から二頭のラプラスが消えたところで、世界は破滅するわけでもなく何事もなかったように廻り続ける。どれだけ男が悔いたところで、塞ぎ込んだところで、相変わらず明日は来るのだし、過去は重ねられていくものだ。
 しかし、後悔は無かった。例え世界にとってどれだけ小さなことであろうと、彼は彼の生涯に意味を与え、その意味を真実にした。これで十分じゃないか。上等な人生だ。彼は幸福な溜息をつく。
 ヤナギ——過去の罪に一切を捧げた愚かな男の一個。その全存在がここで終わる。生涯は死の瞬間に完結し、そして完成する。それこそがヤナギだ。ヤナギのいのちだ。この生涯はヤナギが知っている、己自身が朽ち果てようとも、全ては真実でありつづけるということを知っている。
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