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pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
2026年06月22日 (Mon)
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2014年11月15日 (Sat)
カリン→シャム→カーツ(※性格模造および百合注意)
憧れと執着と自己愛と、一匙の恋愛感情


 一目見たときから分かってた。本当にきれいな女だと思ってたんだ。
 薄く硬質な輪郭と、一点のくすみもない滑らかな薄化粧。愛らしくも拗ねているような幼げな目元も、紅のひとつも差すことのない潔癖な頬の白さも。世に蔓延るあらゆる荒々しさから遠ざけられて育てられたような、高貴で気取らないあのひとが好きだった。あたいの悪癖を見たときに決まってあらわれる、理解できないと言いたげな拒絶の表情を見るのが好きだった。そうさあんたはそのまんまでいい。卑しいあたいを軽蔑できるあんたのままでいてほしいと願ってた。
『……きれいになったな。カリン』
 燻る紫煙を眺めながら思い出す。その声、言葉。振動。空気。どうしてあんたは変わってしまったんだい? 聞いてみたいような気もしたけれど。なあにお互い様さと胸の内で強がってみせる。どうしてだろうひどく淋しい。胸の中を冷たいものが流れて喉がからからになる。なのにふとした瞬間喜びに泣いてしまうのではないかと思う。どうせ涙など終ぞでないのは分かっているが。それでも顔を見れば驚くほど一緒にいたいと思う自分に気がついて、いまも煙草がすこしずつ短くなっていくのに焦れている。
「待たせた」
 手洗いに立っていたその女が戻ってきた。そういえば声も素晴らしく素敵だったと思い出した。女はウーロンハイ。あたいはハイボール。女同士の飲み会にしてはひどくドライな取り合わせだ、と思う。丁度良く短くなった煙草の吸い殻を灰皿に押し付けながら、まともに顔を見る気になれずに女の手元を覗き見れば、バーの明かりに際立つ白さにくらりとしそうだった。
 逃げた娘の話。仮面の話。今の生活の話。他愛のない言葉を交わしながら、そのくせずっと一つのことが頭を離れないでいた。あたいはあんたの何だった? 色よい答を期待していたわけじゃない。気違いだろうと悪人だろうとなんだってよかった。好かれていても嫌われていても構わなかった。ただこのきれいな女にとってあたいが何かであったことを確かめたかった。望んでいたんだ。
「……あれは元気にしているだろうか」
 ふと女が口にした、あたいにはすぐに何のことかが分かった。”あれ”ね。と態とその言い方をまねながら、笑みさえ浮かべてハイボールを舐める。
「悪くはないだろうさ。でも、あんたならもっと上等なのを選びなよ」
 あれにはあんたは勿体ない。暗に、他に幾らでも選びようはあるだろうと仄めかす。女は苦笑してみせた。
「おまえは私のことを買いかぶっているようだな」
 瞬間の、分別を持った大人のような物言いが、ひどく悲しいもののように思った。
 あたいは目の前の女に何を望んでいるのだろう。何を求めているのだろう。ずっと手の届かないところにいてほしかった。あたいの卑しさを軽蔑しつづけてほしかった。あたいなんか足元にも及ばない。きれいな女でいてほしかった。かつてあたいの揶揄い混じりの賛辞に嫌悪と軽蔑の表情を浮かべて睨んでいた女が、今はやわらかく目を細め、すこし悲しそうに寂しそうに苦笑いする、その事実が何よりも淋しくて。アルコールに浮ついた中身の無い言葉が、けだるい唇から転がり落ちるままにしていた。
 一本、二本。灰皿の底が吸い殻で埋まるころには、すっかり夜も更けていた。何を喋ったかさえも思い出せないまま。
「また近くに来たら寄るといい。他にも酒の旨い店を知ってる」
 別れ際にきれいな女はそう言った。酔った視界で笑いながらあたいは。
「はは、今夜はただの気まぐれだって、言ったろ」
「もう来ないのか?」
「来ないよ」
 あたいの言葉に女は暫く口を閉じたが、やがて笑った。
「来るさ」
 その不思議と自信に満ちた微笑に、あたいはなぜだか怖くなった。またあの大きな淋しさがやってくるような気がした。だから返事もせず、そのまま踵をかえし、足早にその場を去ろうとしたところを呼び止められて、少しだけ振り返る。狭い通りを照らし出す居酒屋やコンビニの明かりに、僅かに照らし出された女の姿が視界の端にちらついていた。

「カリン。おまえはきれいだよ」

 その言葉に何も言わずに飛び立った。夢中になって夜の風を切った。自宅近くに降り立っても衝動はおさまらず、堪らず走った。逃げたかった。その言葉、声。振動。空気。なにもかもが泣きたくなるような淋しさで溢れていた。ぶちこわしてしまいたくなるような淋しさに満ちていた。やがて逃げ帰った部屋の中、ベッドにうつぶせに飛び込んだ。そしてもう戻れないことを悟った。
 カリン、きれいなカリン。不幸も卑しさももはや慰めてはくれない。痩せっぽっちで傷だらけのカリンはもういない。カリンはきれいだ。泣き崩れた。



 一晩の間泣いたあとの朝、窓から注ぎ込む日差しに目を細めておき上がった。閉め切った窓の隙間から僅かに流れ込んで来るひやりとした空気を感じながら、しばらくは宙を見つめてぼんやりしていた。だがやがて、女は、うつくしく泣き腫らした顔でもって完全な、自信に満ちた微笑を成した。
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