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pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
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2015年03月27日 (Fri)
リクエスト「サカシル親子救済小説」
シルバーのお母さんとかいろいろ、模造しております


 あいつはどうして、いつまでも十かそこらの子供のような気でいる。
 というのは、俺の母さんだという人を評して、あの男が決まって選ぶ言葉だ。日々の最中にちょっとした切っ掛けで思い出したことを、父として俺に話してくれる。それは単なる言葉の連なりではあったけれど、マニューラの習慣や、あの男の懐かしむような視線には、たまにぎくっとさせられる。この生活は、俺の心臓の一番近いところにあったもので、これまでもこれからもずっと変わらない過去の出来事であると暗に語られているようだった。
 言葉で語られるものは、なぜか、少し余計に良いように見えて。知らない物語みたいに、俺からは遠く、そのぶん素敵に響く。ねえさんが語った噺や、ゴールドの噺と同じように、あの男の語る噺もまた、この世のものには思えないほど、美しいように思った。眼差しや発音はときに言葉よりも雄弁に物語った。途中、あの男の静かに伏せた目つきがじっと俺を見詰めることもあった。それは、どうやら俺に、在りし日の子どもの姿を探しているようなのだった。視線は、レースのカーテンごしの朝の陽射しみたいに、さっと射して、温度も残すことなく退いていく。俺を暴こうとはしない。やろうと思えば俺を解体して、見つけだしたいものを見つけるくらいは訳ないだろう。光はさっと射して、ふいに我にかえったように、僅かばかり寂しいような余韻を残しながら退いていく。たぶんそれは真摯さゆえなんだろう。父としてというよりかは、あの男としての真摯さ。
 窓から見える梅雨。庭に一本飢えた椿の濃い緑色の葉を伝った雫のこと。嵐の夜に揺れる窓硝子の音のこと。約束を破ったときの、お母さんだったという女の膨れっ面の愛らしいことと、機嫌を直すのは本当に大変だったということ。眠る彼女を起こさないように静かに降ろした足、質のよくない床の軋み。彼女が死んだ冬の朝の陽射し、春の日の木漏れ日のようにうつくしかったあの光のこと。彼女の居ない生活。残された子どもと送る時間。ポケモン達にずいぶん助けられて過ごしていた日々。そして三度目の春。彼女が死んだ朝のようにうつくしかった春の日の朝、外で遊んでいた子どもがいなくなった。ニューラもいなくなった。その瞬間の森の静けさ。すべて夢だったとすら錯覚するほどの静けさ。すべて春の風に攫われて、見失った。
 父が語った数々のことは、みんなこんなふうなことだった。言葉のひとつひとつは、砂糖を溶かしたあたたかいミルクみたいな静けさに満ちていた。父としてのあの男が見たもの。それは明らかにあの男にしては出来すぎた物語ではあったのに、俺はあえて疑おうとはしなかった。ただ、もっと知りたかった。あの男の言葉、かつて与えられるはずだった言葉のひとつひとつを。語られる世界は、あの男に似合わないほど優しい言葉で溢れているように見えていた。
「——ので、××したんだったが——」
 あるとき、あの男がなにげなしに零したこと。ここでの生活のことを語るついでとして、何も大したことでないように話すので、俺は驚くことなくそのまま聞いていた。
「×××××てな。××んでいた××らに呼び出されて、約束を破ってしまったんだ。腕に××を受けていたが、まあそのまま直行してもよかった……が、流石に人に知られるのは出来る限り避けたかった。それで、翌々日にようやく顔を合わしたんだが大層ご立腹と見えて取りつく島もなかった……」
 違和感を覚えたのはやっと、噺が暫く進んでからのことだった。俺はそれを押しとどめるように、慎重に口を開いた。
「××した?」
 それは、俺にとってあまりに当然の整理されつくした言葉のようにも思えたし、かと思えば、意味も知らない遠い国の言葉のようにも思えた。父は俺の顔を見て、頷いた。
「ああ」
「…………変だ」
 目の前の男がそういう人物であることは知っていたはずなのに、いつの間にか、父はそんなことをするはずがないと、俺の中で結論ができていたということが。あるいは、そういう言葉を手繰る男が、どんな顔をしてこの家で、妻と呼べる女や彼女が産んだ子どもと生活できたのかということが。変か、と少し笑いながら訊かれた。変だと思った、だけど。
「……じっさい、そうなんだから、変じゃないんだろ」
 目の前の男は二、三瞬きをして、そうかと言いながら笑みを深くした。
 付け加えると、その笑みの理由は、後になってねえさんと話しているときに気付いた。俺はそのときに、父としての側面が欺瞞だと指摘してもよかったわけで、あの男もそれを予期していたように思う。ところが、俺の頭の中には疑いなど欠片も浮かばなかった。それであの男は笑ったんだ。あの男は、自分の予想しないことを余興にしてしまうみたいだから。
 ふと、そうして受け流してしまうことが、正しいことだろうかという思いが過った。俺は全てを承知でここにいるんだ。もしゴールドだったら怒っただろうか。このくそおやじ、とか言うのだろうか。そもそもこの男がこういう人物であるということをまるっきり分かっていて、自分がここにいるという状況下であっても、遥か昔に××された人物に、或は今どうなっているかもわからない彼と関わった人々のために怒るのだろうか。”どうすべき”かなんてのは、俺にはいつもわからない。ねえさんや、クリスなら知っているのかもしれない。
 もしかしたら、” ××”は俺の中にあって、俺はそれを知っている。血になって身体じゅうを巡っている。なんの感慨ももたずに静かに見下ろせるくらいには、俺はこの言葉を知っている。そうかもしれない。けれど俺を俺たらしめるものは、それは間違いだといっている気がした。グリーン先輩は、何をせずとも眉を顰めてしかるべきだと言うだろうし、ブルーねえさんでさえ、何をせずとも一回くらいはその人たちのことを想って沈むべきだと言うだろう。俺が発見した俺自身も、そう言っている。けれど俺の心には今の所、波風ひとつと立ちはしない。俺が見つけた俺でいるためには、ここで苦い感情をのぞかせてみるべきだと分かっているのに、何もしなかった。義務感に晒される傍ら、何か重要なものを見逃しているような感じもしていた。どっちが正しいのか、わからなくて、黙っていることにした。答えはまだ出ない。もう少しでいいから、待っていてほしい、その一心で。
 切っ掛けはそんなことだった。まだ、見つけていないものが残っている。父のことだけじゃなく、自分自身のことについて。それで、俺も思い出そうとしたんだ。俺の過去について、俺が今まで理解したものや感じたものを、言葉にしてみようと思い至った。だが、それはなかなか上手くいかなかった。というのも、日記をつけていたわけでもなく、記憶を呼び起こすような品が残っているわけでもなく、過去俺が何をしていたのかさえも、ろくに思い出せなかったからだ。
 夜、戻ってきたマニューラを前に、どうしようかとつい零すと、マニューラはベッドに放り出してあったポケギアを爪先でつついた。何かと思って身を乗り出して覗き込むと、マニューラが指している場所は丁度タウンマップのところ。
「……今まで行った場所を訪ねればいいって?」
 尋ねれば、マニューラは小さく二回ほどうなずいたみたいだった。理由はわからないけれど、おもわず笑ってしまった。そうだな。少しの間、また旅に出てみてもいいかもしれない。そんなことを考えながら、仰向けに寝転がったとき、急に纏う空気の変わったマニューラが素早く身を翻した。マニューラ、と思わず名を呼んでも振り向きもせず、彼は一目散に母のものだったという寝台のほうへ駆けていった。そんなことははじめてで、何事かと起き上がってみれば、彼が寝台の下に滑り込んだと思ったら、ビードルが二匹、叩き出されて転がり出た。驚いた。こんなに必死になっているところを、初めて見たかもしれない。
 ただ事ではなさそうだと感じ取って、近付いて膝を折り、マニューラが潜り込んでいるベッド下を覗き込んだ。薄暗がりの中にぎらぎら光っていた真っ赤な双眸が、ふいに一瞬、弱々しい、泣き出しそうな色を湛えた気がした。俺が僅かに近付いただけで、彼が怯えたように身を縮めるのがわかった。
「マニューラ……、どうした?」
 流石にけげんに思ってそう尋ねてみると、マニューラは小さく身体を震わせ、とつぜん我に返ったかのように先ほどまでの怯えが消え失せた。マニューラはそれから数秒ほど息を潜めて身を固くしていたが、まもなくして、いつものように落ち着き払った所作でゆっくりと俺のほうに近付いて、寝台の下から顔を出した。そうして立ち上がったとき、マニューラは両腕に平べったい箱を抱えており、それを静かに俺に差し出した。俺が受け取ってからも、マニューラは俺の顔からじっと視線をはなさない。
 箱は、ハードカバーの小説本くらいの大きさで、木製で、表面が赤く塗装されていた。金具も装飾もなく、蓋があるだけのただの箱。マニューラの視線を受け、釈然としないながらも俺が蓋を開けると、深い緑色をした表紙の本が、無言のままそこに収まっていた。
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