pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
リクエスト「サカシル親子救済小説」
シルバーのお母さんとかいろいろ、模造しております
シルバーのお母さんとかいろいろ、模造しております
七日目は、朝から雲ひとつない晴天だった。ウバメの森の樹上、陽が射すよりも早く目を覚まして、夜が明けるのを待っていた。磨き抜かれたいちめん群青色の空が、東からの光に少しずつ色を薄くして、針の穴のようだった星が、ひとつひとつ光に呑み込まれて見えなくなるのを眺めていた。滑らかな鋼鉄にも似た空が、天高くまで突き抜けるように明るく照らし出された頃、俺は東に向かって出発した。
目指したのは、高速道路沿いの、あの飲食店——“Carry and Beri ’s DELI”、キャリーとベリの店。日記の記述によれば、”キャリー”という名前の女は、昔のあの男の裏の顔を知っているように想える。よくある欧米風の名前であることは百も承知だが、実際にあの男と彼らは知己だった。時間がないし、搦め手は得意じゃない。単刀直入にカマをかけてみよう。何も知らないならいい、しかし少しでも疑わしい素振りを見せたり、庇立てするようなことがあるならば……そんなことを考えているうちに、高速道路から逸れた道の先にある、四角い建物が見えてきた。上空から見下ろす駐車場はがらがらだ。色の濃いコンクリートの上に白線が無数の格子を描いている。着地にはもってこいだと、俺はそのひとつに降り立って、マニューラを出し、店に向けて歩を進めた。
ブラインドの降ろされた硝子扉の向こうには、”AM 6:00 OPEN” と書かれた看板が吊り下がっている。ポケギアの時刻を確認すると、丁度開店十分前だった。完璧な頃合いと見て、俺は何も考えずに——他の店員がいるかもしれないということすら頭になく——扉を開けた。あらゆる窓がブラインドによって閉め切られた店内は薄暗く、しんと静まり返っていた。キャリー、あの派手な女の姿は見えない。静寂に溶け込むようにしてひっそりとカウンターの向こうで仕込みをしていたベリが軽く目線を上げてこっちを見た。そして奥の部屋を振り返って叫んだ。
「キャリー、お客さんだよ」
少し間があって、ええ、開店にはまだちょっと早いじゃないの等と遠く声がしたかと思ったら、とんとんと階段を駆け下りる音とともに、背が高く、丈のみじかいスカートをはいた金髪の女が姿をあらわした。彼女は俺を見るなり、目を丸くした。
「あら……、坊ちゃんじゃないの。どうしたの、こんな時間に……家出?」
「……この店……、ロケット団の首領の手配書がないんだな」
「そういう店じゃないからね」
キャリーはヘアピンを巻き毛にさしながらおっとりと微笑んだ。俺は続けた。
「十七年前のクリスマス・イブに、トキワの森である女の赤ん坊をとりあげたことがあるか?」
「あるわよ。どうして?」
「彼女の日記に書いてあった」
キャリーは目を細め、しばらく品定めするかのように俺を見て黙っていた。包丁が規則的に俎板を叩く音が響いている。いいわ、と彼女はそっけない調子で頷いて、俺の横をすり抜けて。扉にかけてあった札を、”臨時休業”にかえながら、言った。
「何が目的?」
「父の——あの男のことが聞きたい」
後ろから、「いいわ、あたしの知ってることなら話してあげる」という声が聞こえるとともに、扉の内鍵が閉まった。
それからマニューラと俺は窓際のボックス席に通され、キャリーと向かい合う形になった。彼女は頬杖をついて、どこか冷めた視線をちらりと俺に向けた。
「それで? あの人の——サカキの何について知りたいのかしら」
「……まず、あの男がロケット団を結成した理由」
「……。悪いけど、あたしとベリはその頃もう足を洗っていたから、何も知らないの。あたしたちが話せるのは、それより前のことだけ」
「なら、あの男が悪事に手を染めた切っ掛けは?」
「それもわからないわ。あたしと知り合う前から、もう色々やってたみたいだったもの」
「だったら、あなたがあの男と一緒に仕事をはじめた理由」
「オーケイ」
キャリーは頷いて、それから思い出したように口を開いた。先ほどまでの素っ気なさとは相容れない、どこか窺うようなおずおずした目つきで、「煙草吸っても良い?」と尋ねた。構わないといったら、彼女は席から後ろに身を乗り出して、ベリに煙草を頼んだ。ベリは包丁を置いて、カウンターから灰皿と煙草の箱とマッチを持って、俺たちの机の上に置いて無言のまま戻っていった。キャリーは一服大きく吸って、煙を吐き出してから、話しはじめた。
「あたし、クォーターなの。母方の祖母がカントー出身で、後の親族は全員イッシュ。父は国際警察の一人で世界中を飛び回っていたから、私は祖母と、病身の母に、カントーで育てられた。だけど、父によって振り込まれる生活費は十分過ぎる額で、何不自由ない生活だったわ。父も休暇のときは帰ってきてくれた。厳しい人だったけど、ほんの子どもだったあたしにすら誠実で真剣だったわ。だからあたしは誰よりも父が好きだった。でも、あたしが大学生のときに父は死んだ」
祖母や母からは、自殺だったと知らされた。だが、彼女は祖母と母が、隠れるように話しているのを聞いた。「誰かがあの人を殺したのよ」と母は泣いていた。「自殺なんてするような人じゃないわ」そして病身だった母親は後を追うように、一年後に肺炎で死んでしまったという。
「いつも父が正しかった。あたしは、正義を信仰していた。だけど母の言葉がこびりついて離れなかった。真偽がどうであれ、その疑いで、あたしの信仰は殺されたのよ。正しいものを見失ったままで大学を卒業して、何をする気力もなくふらふらしていたときにサカキと再会したの——そう、言い忘れていたけど、中学の同級だったから——バーで向こうから先に気付いて、なんとなく話し込んでね。それが切っ掛け」
「話の内容は?」
「もう、細かいことは憶えてないけど……人はどう生きるべきかとか、世の中は斯くあるべきかっていう、そんな話。だけどね、あなたにとってはきっと聞く価値もない話よ」
どうしてと尋ねたら、キャリーは自嘲気味に微笑んだ。
「あたしはね、他の大勢の人たちと同様に……多分、あの人に憧れただけだと思うからよ。彼の言ってることは、なんとなくどこか掴めないところがあるのに、だけど彼の言葉はいつだって確りしている。だからきっと何かあるに違いない……深淵な意味とか、そういうものが。あたしは勝手にそんなふうに思ってただけ。この世界で生きていくことの意味を見失って、何でもいいから指針が欲しかっただけのような気がするの。その証拠にほら……あたし、もう足を洗っちゃってるでしょ」
「……そうか」
「無駄骨だったかしらね」
「いや。もうひとつ、用がある」
「なにかしら」
「母から、あなたに伝言だ」
俺は封筒を彼女に渡した。それは最後の日記に挟まれていたものだった。キャリーは無言でそれを開き、一枚きりの便箋にしばらく読みふけったが、やがて何ともいえない表情で手を下ろし、「……彼女が大したへそまがりだってことはすぐ分かったのよ」とひとりごとのように呟いた。
「でもそれ以上に悔しくてね。あの人は従妹だなんて言ってたけど、なんとなく、大事な女なんだって分かったの。それが器量良しの性格美人だったら諦めもつくじゃない? なのによりにもよって何であんな天邪鬼と、って嫉妬してた。こないだあの人があなたを連れて、息子だって紹介したときにも、やっぱりって思ったわ。あの人、あたしに自分はひとりものだ、彼女は従妹だって言ってたのもきれいさっぱり忘れて、しゃあしゃあとあなたのことを息子だなんて言うんだから、まったくどうしようもないわよ」
殆ど個人的感情をぶちまけるようにキャリーは吐き捨てたが、そのあと思い出したように、話を本筋に戻した。
「あたしも最初は彼女が嫌いだったわ。でもあたしが好きになったのには、彼女は自分の感情や言葉を隠したり誤摩化したりしなかったってところにあるのよ」
あなたのすぐ顔に出るところはお母さん譲りかしらと言ってキャリーは微笑み、感慨深そうにつぶやく。でも…………そう、……そう。あなたがあのときの……赤ちゃんなのねえ。
「あたしからも聞いてもいい?」
二本目の煙草に火をつけながら、彼女はそう尋ねておいて、俺の返事を待たなかった。
「あなたはどうするつもりなの」
何を、と思う。口に出ていたのか、彼女は当然でしょうと言いたげに続けた。
「”お父さん”をよ」
お父さん。その言葉に雷に打たれたような気持で、顔を上げた。そうだ。あの男の一部がお父さんなんじゃない。あの男こそが、彼の全体が、”お父さん”なんだ。俺が何も言えないでいると、キャリーはどこかかなしそうに俺をじっと見た。
「……あなたの正義はあなたの愛情と相反することになるかもしれない。だけどどっちも殺してはいけないわ。あなたの言う”あの男”だけを殺すことはできないの」
「何を……」
言い出す、と言いかけたところでキャリーは少し呆れたような苦笑いをした。
「……あなた、もしあたしが喋らなかったらどうするつもりだった?」
その言葉に、咄嗟に答えられなかった。ああ確かに俺は考えたんだ、ここを訪れる前に。少しでも疑わしい素振りが見えたり庇立てするようであれば、そのときは——
「×××××」
俺の言葉にキャリーは泣きそうな顔で笑った。それはどこか嘲っているようでもあった。すぐに分かったわ、だってあなたすごく殺気立ってた。
「この間来たときも、あなたはお父さんが正しいかどうか判断しかねているみたいだった。だけどあなたなら、きっと理解できる日が来るわ。あなたの正義と愛情が両立するときが来る。決して早まっては駄目、あなたはあたしが取り上げたんだから」
そう言い切ってしまうと、キャリーは席を立った。
「……さあ。こんな噺はここまでよ、コーヒーとミートパイを御馳走するから、いまはお父さんのところへお帰り」
私のシルバーは元気かしら
お母さんがいなくて、寂しくて泣いていないかしら
あなたが泣いていると想像するだけで、お母さんは胸を張り裂かれたようです
お母さんはあなたを想って泣いています
これから大きくなっていくあなたと会うことができないからです
あなたに会いたい!
一週間後のあなた、一年後のあなた、十年後のあなたにひと目会いたい
だからあなたに手紙を書くことにしました
この手紙をあなたが読むのを想像すると、少しは慰められた気になるのです
そうなれば、きっと私たち、会えることになるんですからね……
ただひとつ、どうか憶えていてほしいの
いまこの手紙を書いているこの私、ただひとりの私がこれほどまでに、
苦しいほどにあなたを愛しているということを
P.S
お願いがあるの
キャリーに会ってください
お礼を伝えてほしいの、それに手紙も渡して
私が感謝してるってこと、あと、最後まで天邪鬼でごめんなさいって
きっとあなたも彼女を愛してね
短い間だったけど、彼女は私にとって親友だったから