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pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
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2015年03月29日 (Sun)
リクエスト「サカシル親子救済小説」
シルバーのお母さんとかいろいろ、模造しております


「一週間で戻ってくる、だから……ここで待ってて」
 すこしの間、旅に出る。そう言ったときに、いきなりどうした、と至極まっとうな反応をされたことには驚いた。そういうことに対しては無頓着だと思っていたから。理由を尋ねられてうまく答える自信はない。どういう言葉を選べば正しく伝えられるのか、咄嗟に思いつかなくて、黙って首を振った。
 ただ、ひとつだけ。待っていてほしい、と思う。他でもないこの場所で、俺が帰るのを待っていてほしいと。俺はきっと感傷的になっているんだろうと思ったけれど、これからの旅をした上で、俺が得たもののひとつひとつを、一番に知ってほしいのはきっと父としてのこの男なんだ。忘れ去られ朽ちかけたこの場所に帰ることを許してもらえるなら。祈るような気持で顔をあげると、わかった、とあの男はものものしく答えた。
「シルバー」
 ポケモン達を揃えて背を向けたら、ふと後ろから、声。
 振り返りかけたのを押しとどめられるように、頭上に手が降りてきた。
「行っておいで」
 そのまま振り返ることはできなかった。どんな表情をしているのか、知るのが怖くて。穏やかに語られた風の強い春の日、彼が息子を失ったその瞬間と同じ顔をしているのじゃないかという疑念を拭い去れない。笑っているのか悲しんでいるのか想像すらできないのに、頭から手が退いたその後もついに振り返らないまま、俺はその場所を後にした。
 家を出発してすぐの小川沿いに歩いて、トキワシティに辿り着くと、まずはフレンドリィ・ショップに寄って、ノートとペンをひとつずつ、少し迷って、大判のタウンマップを買った。二百二十五円になります。店員の声がいつもより明瞭に聞こえる気がして僅かに目線を上げたら、十代の学生らしい青年と目があった。眉目のはっきりした、黒目がちの。それを思わずまじまじと見てしまいそうになったのを押しとどめて俯いた。街を歩きながら、街にはこんなにいろんな人がいるものだったかと思った。いままで見えなかった表情が、いまは見える。ざわつきに過ぎなかった声が、言葉となって聞こえる。そういうことの意味が、いまはわかる。そして町外れまでようやく辿り着いたら、ドンカラスをボールから出して、それからひとりきりで、色んな場所を巡った。
 ポケモン達と一緒にぴかぴかのタウンマップを広げて、どこへ行こうかと思案した。ドンカラスで移動、街をぶらついて、腹がすいたら何か食べて、眠くなったら寝る。そんなことは、今までずっと繰り返しやってきたことだ。日々とはこんなものなんだと理解して、この感じは死ぬまで続くんだろうと思っていた、だけど、今は違った。俺はいままで大体ひとりで過ごしてきた、だけど、いまは本当にひとりきりで旅をしているんだ。楽しそうな話し声が聞こえてくるたび、俺はゴールドやお父さんのことを想った。雑踏と喧噪に過ぎないはずの中に、友達や家族を見つけだしていた。たまに立ち止まって、ペンを持ってノートを前に、言葉を探した。
 夜。森の中の隠れ家に行って腰を落ち着け、鞄の中を探していたら、俄に腰のモンスターボールがそわそわしだした。どうしたのだろうと思って上着の裾を捲ってみると、ポケモン達と一瞬目があって、彼らは慌てて視線をそらした。わけが分からずにそのまま見ていたら、おそるおそるドンカラスがこっちを見て、目が合ったと知るやびっくりして後ろを向いてしまった。埒が明かないので、直接きいてみようとポケモン達をボールから出して、どうした? といったら、彼らは遠慮がちに、俺の手元を見詰めた。これのことを知っているのか。いつの間に。おもわずマニューラを見たら、めずらしく、彼は気まずそうに俯いてしまった。どうしてか笑いを誘われながら、べつにいいよ、と言った。一緒に読もう。おあつらえ向きに月の明るい夜で、俺たちは、光がよく差し込む場所を探して少し歩いた。マニューラ、ドンカラスあたりなら樹の上でよいのだが、流石にこの大所帯で十分な広さが必要だ。暫く歩くと、樹も少なく、空がよく見えるところで、雑草でうっすら覆われた地面が青白く照らし出されているのを見つけた。俺たちはそこに腰を落ち着けて、箱を開いた。
 表紙の厚い深緑色の本。中身は、まだ少ししか見ていない。ぱらぱらと捲ってみて、それが母の日記だと気付いたときに、反射的に閉じてしまった。その後、あの男の足音が聞こえて、俺は咄嗟にそれを布団の下に隠してしまった。理由は、自分でもよく分からなかったが。ともかく、俺とマニューラはあの男の前ではおくびにも出さなかった。でも、あの男はこれのことを多分知らないのだろうと思う。或は、もうとうに忘れているのでないかと。
 その後、箱を開けて手に取ってみた。本は鍵つきで、よく見てみると、表紙の右下に小さく”一年日記帳”と金の印字がはいっている。箱の中には、厚さの違う複数の日記帳が重なって、残った隙間に鍵が三つ。上から、一年が四冊続いてから、三年が二冊、五年が一冊、そして最後に十年が一冊。すべて鍵穴がついていたが、鍵がかかっていなかったのは上から三冊だけで、一緒に入っていた三つの鍵もこの三冊に対応するものだった。残り一冊の一年日記帳と、三年、五年、十年のは、鍵がかかったままだ。とりあえず、開ける三冊のうち、一番日付の古いものを選んだ。一日一ページの割当らしく、ページの端に日付をいれるところがある。その日記はしばらく真っ白なページが続いていて、突然、堰を切ったように始まった。最初のページは、インクで埋め尽くされるほどにたくさんのことが書いてあった。
 “家を出る日、新しい日記帳を買った。日記をつけているってことはあの人には秘密。自由に書いてこそだもの。知っているのは昔なじみのマニューラだけ。…"
 そんなふうに始まって、始終こんな調子で、他愛もない話題が続いていた。それを目にしたとき、内容がどうこうというよりも、ほんとうにいたんだ、と変な衝撃を受けた。母と呼べる人のことは、あの男から聞いていながら、俺自身では、どこか信じきれていないようなところがあったんだと思う。
 俺はポケモン達と一緒に、改めて日記帳を開いた。日記にはむらがあって、欄外に溢れるほど書きこまれていることもあれば、一行しかなかったり、曜日と天気しか書き込まれていないときもあった。それでも一年分ともなれば結構な量だ。俺は辛抱強くならなければならなかった。
 俺が旅に出たのは、俺も、お父さんに伝えたいことがあるような気がしたから。俺があの家から離れ、どんなことがあったのか、どういうふうに感じたのか、そんなことを。それは今まで誰かに説明するたびに用いてきた、お定まりの文脈では駄目だと思った。お父さんがあの朽ちかけた家で生きた言葉を思い出しているように、俺は旅の中できっと思い出せる。どうしてこうなっているのかじゃなく、どんなことがあってどういうふうに感じたのか、話す準備が必要だ、俺の噺を。
 それにもうひとつ。腰を据えて、この日記を読むためでもあった。母のことを特に知りたかったわけじゃない(最初の、実在したという実感だけで十分だったのだと思う)、むしろ、知りたかったのはお父さん——否、あの男のこと。何を考え、なぜ、悪を貫くのか。改心させるなんてことは頭になく、単純に知りたかったんだ。自分の中に、あの男が血となって、体中を巡っているような気がしたから。自分自身のために、その正体を掴みたかった。
 だけどポケモン達はそんなことも知りもせずに、俺が日記帳を開くと、遠慮がちに集まって来る。彼らが何を期待しているのか、俺には分からなかった。一週間しか時間がない以上、俺は声に出して読み聞かせるようなことはしなかったのに、彼らは俺の傍でじっとして、ページを捲る音に耳を傾けている。
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