pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
リクエスト「サカシル親子救済小説」
シルバーのお母さんとかいろいろ、模造しております
シルバーのお母さんとかいろいろ、模造しております
二週間をかけて、俺たちはずいぶんいろいろな仕事をした。「やろうと思えば、一週間でできるが」ちらりとこっちを見て、言った。「まあ、いいだろう」布団や食器を買ったり、ベッドや食器棚を作ったり。たぶん、これらは何かの準備なのだろう、とは薄々感じていた。何の準備なのかはてんで見当がつかない、けれどもう一つ気になることは、俺はおそらくその準備の仕方を教えられているらしいということだ。言葉の端々やちょっとした仕草から感じとれるのは、目上のものから目下のものに対する寛大さと少しばかりの傲慢。そういえばワタルさんもこんな感じだったなと今更になって気付いた。あの人は、大体において楽しそうだったが、ときたま仕方のない子供を見るように俺に接していたように思う。ただ、目の前の男はまた少し毛色のちがう感じがした。そして今日、損傷が酷くて使えなくなっていた食器棚を捨てて、新しく作り直したものを代わりに置いた。これで、家の準備はすっかり整ったらしい。ガスの準備もして、排水の仕組みもまだ使えることを確認した。水道はもちろん繫がっていないが、幸いにしてトキワの水は飲用にも適しているし、シロガネ山の麓まで歩けば古い井戸がある。もう殆ど利用するものもないが、埋められもせずに忘れ去られている井戸のひとつらしい。暮らし向きには困らないだろう、最も今までの俺の生活レベルからすると、少々恵まれすぎている程はある。
新しく作った食器棚は、厚い木材を組み合わせただけの簡素なもの。けれど、木材はホームセンターで買ってきたものだったから、他の家具よりもずっと家具らしい感じになった。平に整えられた切口。滑らかな表面。こんなに整っている必要はないのに。と思いのままに呟いたら、同意がかえってきたっけ。多分、それ相応の不格好さよりも寧ろ精巧さをとるほうが、楽なこともあるってことだと思う。ゴールドの家にあるものより遥かに小さい、だが、前にあったものより二周りは大きい。
「前の食器棚は、ずいぶん小さかったな」
キッチンの隅に、置き換わった食器棚を眺めて呟いた。損傷は激しかったものの、見る限りでは、前にこの場所に置いてあった食器棚は腰の高さまでも無かったと思う。実用に値する食器棚というよりは、飾り棚みたいにちょっとしたものだった。それに残されていた他の家具同様、相応に不格好だった。
「……あの”飾り棚”は、もともと作るつもりじゃなかったからな」
ちょうど思っていたのと同じ単語が飛び出してきたので少し驚いた。心を読まれたのかと思った。
なぜ、と尋ねてみたら、必要ないと判断していた。と答えられた。それから続けて、両手で器の形をつくりながら、これくらいの、と言う。
「……椀がひとつ、陶器のな。白色の丸い、取っ手のないやつだ……分厚くて、こうして持っても、あまり熱くなかった。ふちは特に熱くて、口あたりのところが丸くなっていた。それから金属製のスプーンがひとつ、これは確か有名なブランドの……忘れたが、質の良いやつだった。スープ用だったが、柄の先には模様が施されていた。ティースプーンをそのまま大きくしたようなやつだったな。全部でそれだけだった。だから、専用の棚なんてわざわざ要らないと言ったんだが、あんまり強情に必要だと言い張るものだから、辟易して作ったんだ」
一度言葉を切って、出来上がってみたら、と続けた。
「……いくら小さく作ったとはいえ、思った通り、椀ひとつとスプーンひとつしかないのは不格好だった。見ていられなくて、ついに俺が私物のマグカップを置くようにして、なんとか見られるように体を整えたんだ。それ見たことかと言ってやろうと思って顔を見たら、先に言われたんだ。やっぱり必要だったでしょう、と。さも得意げにな」
「……誰の話?」
いつになく饒舌なのに驚きながらも尋ねた。すると、少し考えるふうな仕草を見せて、慎重そうな顔で答えた。
「……お前の母さんの話だ」
その一言で、俺はもっとこの話題に関心を持つべきだったと少し後悔した。正直なところ、話半分に聞いていたので、彼女についての言葉も聞き漏らしているかもしれない。だけど、はじめにそう言わない方も悪い——もっとも、伝えるつもりがあるなら、だが。なぜ、今更、そんな話をする。口にしかけた言葉は、強引な、「いいか」という言葉にかき消される。俺は口を閉じて、目の前の男が次の言葉を口にするのを待った。
「人の心は、器用に振る舞うことのできる性質を持ち得ない」
頭のようにはいかないのだ、と静かに言った。
「俺がお前に伝え、且つ、お前がそれを受け取るためには、時間や手間、何より機会が必要だった。いつかのお前達との日々を言葉にするのを、他でもない俺自身が恐れているというのもある。それは、未だに払拭できずにいる——だが」
一度言葉を切って、俺のほうへ顔を向け、目が、合う。
「近いうちに、また話すだろう」
今日はここまでだ。そう言った声色は珍しくばつが悪そうで、思わずその顔を見返した、そのときに、俺は初めてこの男の顔を見た気がした。真正面から、余す所なく。目の端の窪み、頬から顎にかけての線、浅い顎、固く引き締まった表情筋、薄らと陰りをつくる皺のひとつひとつまで微動だにしない、彫像のような顔に薄く浮かぶ表情の僅かな綻びを見つける。自ら告白した恐怖を払拭しきれないという苦々しさのためらしかった。右の眉が僅かに中央に寄っている、それだけのことに、俺は目の前の男の多くを覗き込んでいるような気持になって、居心地を悪く思った。それで、視線をそらした。知りたくない、わけがない。それは本心だったが、ただ心を、勝手に読み取るような真似は、不躾なような気がしたから。
「分かった。でも、一つだけ先に訊いておきたい」
「……なんだ」
訊いておきながら顔を上げることはできなかった。ただ、声色から感情は読み取れないことが幸いだった。もう何となく、予想はできている。知っている。あの寄せられた片眉の中に、俺は既に答を見つけている。……勘違いで、なければ、だが。
「お母さん、今、どこにいる?」
自分でも上手く言えなかったことに驚いた。最初の頃に、「お父さん」と呼んだときと同じ、しこりのような違和感があった。いよいよ視線を戻せない。どんな顔をしているのか、知るのが怖いと思った。もし万一にも、傷つけられたような顔でもしていたら、俺は——
「…………今は、どこにもいない」
何の覚悟かわからないが、とにかく俺は何かを凌ぐような心持ちで待っていたのに、降りてきたその声があまりにあっさりしているのに驚いた。ちょっとした忘れ物に、今しがた気付いたみたいな声だと思った。びっくりした拍子に顔を上げたら、驚いた顔とかちあった。俺はすこしほっとして、頷いた。