pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
リクエスト「サカシル親子救済小説」
サカキ様のご友人(模造)出てきます
サカキ様のご友人(模造)出てきます
この家はトキワの森の奥深いところにあるのだ、とサカキの言ったとおりだ。森の中を一時間ほど歩き続けてようやく、両脇にロープの張られた山道らしきところに出た。ロープをまたぎ、十五分ほど道なりに下ってゆくと、舗装された車道と見覚えのある駐車場が見えてきて、それで俺はここがシロガネ山の登山コースの一つであることを知った。登山コースと急勾配の階段で繫がっている駐車場には青灰色の石が敷き詰められ、黄色と黒のロープで一台分のスペースが区切られている。上からだとよく見える。ちょうど十五台ほどの車が停められるスペースがあったが、いまそこにあるのは三台だけだ。赤と黒のが一台ずつ、それから深い緑色をして一回り小さいのが一台。石段を下り切ると、サカキは緑色の車に乗るように言った。まさか盗品じゃないだろうなと俺が反射的に感じるのを予期していたかのように、あいつは「俺の車だ」さらりと言った。
バスは乗ったことがあるけれど、自家用車?に乗るのははじめてだ。シートベルトをしろと言われて何のことか分からなかった。サカキはそれに気付いて、一度閉めた自分のシートベルトを外して、もう一回やってみせた。それで俺も同じようにした。かちっ、という小気味良い音とともにベルトは身体を背凭れに押さえつける。そして、車は走り出した。
(こんなに遠いなら、ポケモンで移動すればよかったのに)
わざわざ車を使うまでもない。サカキのことだ、移動用の鳥ポケモンを持ってないなんてことはないだろう。運転席の横顔を窺いながら思った。もっとも今更そんなふうに思うくらいなら、三十分かそこら歩いた時点でそう言っておけばよかったんだ。それでも沈黙に甘んじていた。
そうして一時間以上歩いてきたというのに、会話はほとんどしなかった。聞きたいことは山ほどあるはずだったのに、結局聞くことができたのは、あの家がトキワの森にあるということ、それだけだった。聞こうとしなかったわけじゃない……、ただ、準備が必要だとやんわり繰り返された。いったい何の準備なんだと問いつめてみようかとも思ったけれど、止めてしまった。浮かぶ問いはどれもなにか違うものばかりだった。実のところ俺だって、いったい何を話したいのやら、自分自身で分からないんだから。
山から降りて二十二番道路に出た後、車は高速道路のインターチェンジに向かった。サカキは発券機からチケットを抜き取ると、「持ってろ」と言って助手席の俺に放った。厚い色紙に、「トキワシティ」と黒字の印字がある。再発車した車はぐんぐん速度を増して、やがて片側三車線ずつの大きな車道と合流した。広い道路の両側には高さ一メートルくらいのガードがあり、その向こうには痩せた木が植えられている。そしてどの車線にも、車が走っている。いつも下から眺めるだけだったが、こんな感じになっていたのか。
しばらく走っていると、ちょうど最も左側の車線が二叉にわかれていて、サカキは道を逸れる方向へハンドルを切った。車はどんどん速度を落としている。なにごとかと思っていたら、何百台分という巨大な駐車場と人が目の前に広がって、おもわず呆気にとられた。シロガネ山の登山者用のとは違って、きれいに舗装されているし、何よりその半分が埋まっている。二階建てのバスもいくつも見える。奥のほうには飲食店があって、どうやら休憩所らしい。「混んでるな」とつぶやいて、サカキは隅のほうに車を停めた。
「……着いた、のか?」
ここが目的地だとは思い難いが。サカキはベルトを外しながら、首を横に振った。
「朝飯だ……少し遅いがな」
言いながら、サカキが俺のシートベルトの差し込み口に手を伸ばしたと思ったら、俺のベルトが外れていた。あんまり無造作だったので、何も言う間もなかった。外に出ると、高い建物がないせいか、空が妙に大きく見えた。
サカキに連れられるまま入ったのは複合型施設の端の店だった。通りに面して壁の上半分が窓ガラスで、席ごとにブラインドがひとつずつ。いまは、すべて上がっている。「知り合いがやってる店なんだ」とサカキは言って、入り口の自動ドアをくぐった。
「いらっしゃいませー!」
底抜けに楽しそうな女の声に出迎えられた。金髪の巻き毛、ショートヘア。肌が白くて薄青い目の、背の高い女——たぶんサカキより高い。カチューシャで髪を飾り、半袖の膨らんだ赤いワンピースの上からフリルつきのエプロンをしている。短い裾からストッキングに包まれた脚が伸びて、その先は赤いバレエシューズに包まれている。カウンターの向こうで肘をついて、カウンター客とおしゃべりをしていたものらしい。
「メニューは要る?」
「ああ」
カウンター席につきながら、ひらひらメニューを降る女に向かってサカキが頷く。女はきょとんとした顔をして、まじまじとサカキを見つめてから、「……あらあらあらあら」とちいさくつぶやいた。
「あらあ……旦那、お久しぶりじゃないの。男の子連れてるから分かんなかったわあ」
「息子だ」
サカキが言うと、女は心底驚いたようで、絶句して俺を見つめて来る。
俺は俺で心中穏やかでない。まさかそんなふうに言われるなんて思ってなかった。
「……も〜、恋人がいたなんて聞いてないわよ、ちぇ! ……だけど」
ちらと女は再度俺に視線を寄越して、
「旦那に似てなかなか良い男になりそうな面構えじゃなーい。ね、アナタあと二年くらいしたらおねえさんの若い燕にならない?」
わかい……つばめ? って何だ。何と答えるべきか考えていると、サカキが溜息まじりにそれを制した。
「気にするな、シルバー。キャリー、お前既婚者だろう」
「関係ありませーん。旦那はいつものミートパイとコーヒー? 坊やは?」
渡されたメニューを見ても、別段食べたいと思うようなものはなかったから、俺も同じで、と言ったら、視界の端でサカキが意外そうな顔をした。なに、と聞いてみたら、いや、とサカキは小さく笑いながら、悪くない選択だ、と言った。
「ここのミートパイは旨いんだ」
声を潜めてささやいたサカキの前で、キャリーが「ベリ、旦那とご子息にミートパイ一個ずつね」と厨房に向かって声を上げる。厨房はカウンターの従業員スペースと繫がって、仕切りもなく同じフロア内にある。手元までは見えないが、料理人の顔は見ることができた。コック帽を被った男は黒髪で、キャリーに比べて肌の色が濃く顔立ちの目立たない、東洋風の男だった。「わかった」と愛想のない声で答え、黙々と仕事をはじめた。
運ばれてきたのは、直径二十センチほどの丸いパイだった。ふちがプレスされていて、シルクハットを逆さにしたようなかたちをしている。見た目はゴールドの家でおやつの時間に出てきたものと似ているが、名前からして多分肉詰めなんだろう。ナイフを入れると思った以上に手応えがあって、赤色の煮汁が滲み出した。断面を覗くとミンチ肉がぎっしり。一口大に切り分けて口にいれるとさくっと音を立ててパイ生地が割れて、トマトで味付けされたたっぷりの肉の味がした。ゴールドの家でよく食べたハンバーグと似た料理のはず、だけどどこか違った。肉が固くて、味も素っ気ない気がする。うまく言えないが、単純で粗暴で、欠けていると思う。
「旨いだろう」
サカキがそう尋ねて、俺は自然と首肯いていた。
欠けている、のが悪いとは思わない。それに俺はゴールドの家の何もかもを持て余すことがたびたびあったから、むしろこのくらい単純なほうが性にあってるのかもしれない。もしゴールドがこれを口にしたら、えらく駄目出しするのに違いないだろうが。
「……やっぱり父子なんだねえ」
キャリーがそれをみとめてつぶやいた。彼女はいつの間にかいなくなっていて、またいつの間にか目の前にきているのに驚いた。
「こういうの流行らないのよ。あたしとベリが店をはじめる前に考えたレシピだけど、美味しいなんて言うのはアンタが二人目」
「二人目?」
それって。
「一人目はあんたのお父さん。メニューにもないのよ、旦那が来たときだけ特別ね。旦那が食べてるのを見て注文する客もいるけど、みんな一回きりでおしまい」
あんたたち父子揃って味音痴なんじゃないの、とキャリーはころころ笑った。