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pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
2026年06月22日 (Mon)
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2015年02月22日 (Sun)
リクエスト「サカシル親子救済小説」




 目が覚めて、いま初めて生まれたみたいな気分だ。ここはどこだろう。継ぎ目の目立つ木版の天井と壁、開け放された窓のかたわらで綿のカーテンが揺れている。窓枠の向こう側から風と一緒に流れこんでくるのは葉の匂い。土の匂い。もはや嗅ぎ慣れたはずのそれらが妙に真新しく肺を満たしていくのはなぜだろうとぼんやりと思った。わるくない。深く呼吸をしてもう一度目を閉じようとしたが、うまくいかなかった。しかたなく起き上がることにして、寝台にねかされていたことに気付く。生成色の分厚い綿のタオルケットにくるまっていたが、あまり温かくはなかった。肌寒くて目が醒めたのかもしれない。鉄製の寝台はらくらく寝返りが打てるほど広々としていた。敷かれているのは弾機いりのマットレスではなくて日本式の布団。空気をふくんで、触ってみるとふかふかとしているが、僅かに埃っぽい。においも石鹸のでなく、たぶん黴臭いとでもいうのだろうが、少しくらいならかえってそのほうが落ち着く。虫食いの目立つ窓枠を指でなぞってみると、指に何かが引っかかった。もう殆ど剥がれかけた、透明なコーティング材。おそらく腐敗防止のための。窓枠と壁に使われている木材は、たぶん白樺だろうと思う。
 部屋は広々としていたが、民家にしては閑散としていると思う。俺がねかされていた寝台がひとつ、窓は寝台の横にひとつと、部屋の奥にひとつ。寝台のはす向かいの出入り口の近くに四つ足の机と背凭れのない椅子がひとつずつ、そのかたわらに腰くらいまでしかない小さな本棚がふたつ並んでいる。大きさは殆ど同じだけれど、同じ品というには違いがはっきり分かる程、どっちもどっちで歪な形をしている。どれも、たぶん白樺でつくられている。もしかしたら全て手製なのかもしれない、家も、家財も。布団の感じからして、たぶんこの布団は自分用にとくべつに手入れされたものなんだと分かる。けれどそうにしては、この家はあまりに古過ぎる。何もかもが朽ちかけて、古びている。かつてここにあったはずの生活感は重ねられた時間の向こうに遠ざかって、すっかりくたびれたままに忘れかけられている。窓の外では白樺の樹が葉をこすらせながら揺れている。
 足を降ろして立ち上がる。床板が軋むが、床が抜けるほどには傷んでいない、ようだ。かろうじて。不思議な気分のまま、扉も金具もない、ただの出入り口に向かった。通り過ぎた一人用のちいさな机の上には、アルコール式のランタンが置かれている。部屋を見回しても、それ以外に灯りらしきものは見当たらなかった。火は明かりの代わりには余りに役不足だが、無いよりはよほどまし、経験上。火を点す綿の網紐の先は黒く焦げていて使い込まれた形跡はあるものの、ガラスの燃料入れともどもからからに乾いている。たぶん……と思った。たぶん、机にくっついた歪な引き出しの中には、使いかけのマッチがそのままに入っている。喫茶店のレジカウンターに置かれていたのをもらって忘れていたのを何かのついででふいに思い出して、ようやく使い出したようなマッチだ。引き出しを開けてみようとして、躊躇いが生じたときには遅く、埋め込まれた鉄の取っ手を掴んで引っ張ろうとしていた。けれどすぐさま引っかかりがあって、うまくいなかった。素人目にもがたついているから、きっと引き出すのにはコツがいるんだろう。ほっとして手を離し、僅かばかり引いてしまったのを元通りに押し込んでおいた。
 木枠をくぐった先は、ひとまわり小さな部屋だった。すぐ横手に木製のキッチンカウンターがあって、そちら側にまわってみると、台の上にステンレスの四角いシンクが埋め込まれていた。四方を螺子でとめられていて、底には排水溝と思しき穴が開いているから多分そうなんだろう。ただし蛇口はなく、かわりにキッチンの片隅に水汲み桶がある。シンクの横には鉄製のガスコンロがある。きっともうガスは残っていないだろうと思った。アルコールランプ同様。カウンターの下はラックになっていて、フライパンにしては深くシチュー鍋にしては浅い、鉄製の片手鍋と、調理器具が二、三。それに、きれいな檜の箱が一つ。たぶんこれは既製品だろう。それから、と横に視線を走らせると、端に置かれていたものが目に入った。
 赤銅色に鈍く光るなだらかな曲線を描く、銅のドリップポット。キッチン裏手のガラス扉からの光を受けて、それはまるで呼吸をしているかのように静かに煌めいている。白樺の葉が揺れるたびに変化する光を受けて、同じように表面で光が揺れている。そのとき、何もかもが死んだはずの世界の中に、初めて生きているものを見つけたみたいな驚きがあった。おもわず手に取って、その理由がわかった。表面がでこぼこしている。そのせいで無数に繰り返される山から、光が谷にこぼれおちているみたいに見えるんだ。
「起きたのか」
 不意の声に驚いて顔を上げる。カウンターの向こう側。この家の入り口の扉が開かれている。一瞬、開かれた扉の向こうから光が溢れて白く染め上げられた気がした。その中で影が立っている。サカキ——幻かと。
「おまえと話がしたくてな」
 それでようやく俺は、どういった経緯でここにいるのかを考えることを思い出して、すぐに思い至った。ゴールドやクリスと別れた後、修行のためにシロガネ山の樹海を移動していた途中、隣を歩いていたマニューラがいきなり飛び出したのに気をとられた、その後の記憶が不自然に途切れている、次に目覚めたのは、あの布団の上だった。
「……だからって拉致なんて」
 ちゃんと言葉でいってくれたらよかったのに。
「俺がひとりだけでする必要があった」
「お前を見かけたからといってすぐに飛びかかるほど見境無しじゃない」
 ロケット団首領としてでなく、お父さんとして言ってくれたら、警戒だってそんなにしない。見くびられていたのかと、自然と声の調子も辛辣になった。するとサカキは思いもかけない言葉を聞いたと言いたげに目を丸くしてから、やがておかしそうに喉の奥で笑った。
「……分かっている。悪かった、そういう意味じゃないんだ。あえてお前に知らせなかったのは、俺がそうしたかっただけだ」
 だから気にするなと笑われて顔が熱くなった。のを、自分で気付かないふりをした。恥ずかしい、なんて今更だって分かってる。何の意味もないってことも。なんでこんなにむしゃくしゃするんだろう、クリスは心配するようなことじゃないって言った、のに。
「……それで、話ってなに」
「まず、その話をするための準備がある」
 言って、サカキは部屋の中に入ってきて、椅子の背凭れに引っ掛けてあった外套に袖を通し、帽子を目深に被った。それらは最後に見たときに身につけていたのと同じ品だとわかった。もう大分くたびれている……、人のことを言えた格好でないことはわかっているが。
「出かけるぞ」
 飯は行きがけに食おう。その言葉が今まで見てきたサカキのイメージとは妙にちぐはぐだと思った。けれど、とりあえず頷いた。
 きっと罠ではない。不思議な確信があった。例え、俺が無意識のうちにそう信じたいゆえの確信だったとしても、目の前の男を信じることができる、それだけのことに安心した。
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