pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
リクエスト「シルブル」
突然のブルー視点
突然のブルー視点
一個年下のとりつかいの男の子。あたしより少し背が高かったけど、年齢より少し幼く見える子で、大きな目、磨いたみたいにぴかぴかしていてそれがかわいかった。
最初の違和感は初めて遊びに行った映画館。あの子が好きなアクション映画の続編がちょうどやっていたので、行ったんだった。友達からはじめようとしていたあたしたちは、ふわふわした気持で、もうすぐ昼ご飯なのに何か食べたり飲んだりするものを買おうと話し合った。あたしはすっかり有頂天になっていたから、ジュースなにがいい? って聞かれたときに、あたしなんでもいいわと言って、あの子を送り出してしまったの。
それであの子はジンジャーエールをもってきた。あのぴかぴか光る瞳から、照れ臭そうな笑みをこぼしながら。だけどあたしが欲しいのは、その飲み物じゃなかった。
落胆を隠して微笑みながら、ちらりと目をやった先のメニューで。
(あのこだったら、きっと……メロンソーダを持ってきてくれた)
そのときは、単なる偶然だと思ってた。あのことはずいぶん長く一緒にいて、あたしの好みもすっかり知っていたから、それでたまたま思い浮かんだんだと思ってたのよ。だけど違った。
あのこはあたしにジンジャーエールを選ばない。
あのこは映画の途中でひそひそと話しかけてきたりしない。
あのこはこんなに上手な言葉の選び方はしない。
あのこは——
あのこじゃない男の子と遊びに行くたび、いままで唯一だったあのこがたくさんの人の中のひとりになる。あのこの優れたところ劣ったところが人の中で浮かび上がって、あのこを評価する言葉が増えていく。けれど不思議なことに、いっこも悪いことなんてなかったのよ。
どの人と遊びにいってもおんなじことの繰り返しだった。あのこよりも優しい人、あのこよりも傍にいてくれる人、あのこよりもあたしを理解ってくれて、あのこよりもあたしを愛してくれる人。心の中ではそんな人いやしないって分かっていたのかもしれないけど、それにしたって、道行く人はあまりにあたしを知らなさすぎるわ!
この人は、パパやママにすら——パパやママだからこそ言えない、あたしの犯歴を、分かってくれるかしら? 憎まず、赦さず、ただ一緒に背負ってくれるかしら? 犯歴ごと、あたしを抱き締めてくれるかしら? あたしの犯歴を、愛してくれるかしら。
ひとりならいいの、ひとりで背負っていけるから。だけど愛する人と自分のすべてを分かち合えないというのはどうなのかしら。もし本当にただひとりの人を愛したときには、どうしてあたしの全てを打ち明けずにいることができるだろう。そうでなければ、あたしは最も誠実であるべき人に嘘をつくことになるの。けれどあたしの本当を知って、誰が傍にいてくれるっていうの。
だから怖くなった、あたしとあのこを引き離そうすとする全ての人のことが。
「どういうつもり」
その日、あたしはすぐにトキワジムを訪れた。おざなりに落とした化粧の残り香を孕んだその体のまま。目指すのは”関係者立ち入り禁止”の扉の向こう、今日は挑戦者がいないから執務室で書き物をしているというグリーンのところ。
「何が」
グリーンは、本や紙きれの散らばった机の上で、ノートに鉛筆を走らせたまま、あたしに見向きもしない。
「決まってるでしょ、シルバーのことよ…………今更、一度読み解いた大地の奥義を勧めるなんて、何を考えているの?」
ちらりとグリーンがこっちを窺ったかと思うと、淡々と返した。
「お前に言う必要があるのか?」
「答えてよ」
尚更苛立って詰め寄ると、グリーンは溜息を一つついた。その仕草に煽られたけれど、ここはぐっと堪えて口を結ぶ。
「あいつは今、サカキの利用していた資料庫にある本を片っ端から読んでいる。あの奥義書を完成させるために、サカキが参考にした文献があの資料庫に残っていることも多いに考えられる。だからこそ、以前読み解いたときには読み取れなかったものが読み取れるかもしれない……、サカキの頭の中を覗きたいと思ったら、あの奥義書が一番手っ取り早い。それだけだ。予想通りだったんじゃないのか」
確かにそれはあたしの思ったとおりだった。だけど、あのこには。
「まだ早いわ」
「何故そう思う」
グリーンもあたしの返答を予測していたかのような早さで尋ね返してきた。
「まだ子供よ。あたしを嫌うことなんて有り得ないと思ってる」
そう、無理だわ。あたしは試したけれどあのこは何も分かっていない。自分がまだ、あたしという領域の中にしかいないと思ってる。だから、まだ、まだ大丈夫。もしかしたらそんな日は来ないのかもしれない、そんな期待さえ抱いていたのに。
「……確かめたのか。安心したか?」
ねえ、それはあんまりにも冷たい返事じゃないかしら?