pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
リクエスト「シルブル」
「……今のところ……、全部あたしの想定内だったわよ、シルバー」
立ちふさがるカメックスを前に、倒れたオーダイルをボールに戻す。
ねえさんの今日の戦い方、厄介だ。常に僅差しかないように見せておきながら、最後の一体を確実に、自分が有利になるように仕向けてくる。ねえさんは俺のことを知りすぎている。戦い方も、物事の考え方もすべて、ねえさんからもらったものだったから。
「これだけじゃ、あたしに勝てないの……分かってるよね?」
だけど、俺だけが見てきたものだってある。俺だけが思ったものだってある。ねえさんと一緒にいたときでさえ、俺だけのものがあった。
それに気付いた瞬間から、俺も、俺だけの考えで動いてたんだ。
「行け、ドサイドン、じならし!」
「カメちゃん、ハイドロ——きゃ!? 何っ……泥が!?」
強い振動とともに、地面から泥が吹き出す。カメックスの重量ではどんどん足元が沈むばかりだ。足元が不安定なら自慢の砲台も狙いが定まらない。ねえさんが何かに気付いたように顔を上げる。
「"液状化現象”、……ねえさんは、知ってるよね?」
ギャラドス、キングドラ、オーダイルを使って、辺りに水をまき散らしたのも、すべてこのためだった。だが、これだけじゃ詰めが甘い。
「……あたしが教えたんだものね。だけど甘いわ、カメちゃん、うずしお!」
カメックスは逆に浮上してきた泥水を利用して、ドサイドンを泥の渦の中に引きずり込もうとする。泥水といえども表面は水分を多分に含んでいるからドサイドンにはかなりきついだろうが、うずしおが退いたとき、そこにドサイドンの姿はないはずだ。なぜならドサイドンがいるのは、地中。動きの鈍いカメックスに狙いを定めて——
「”あなをほる”!!」
カメックスがどう、と音を立てて倒れた。
心臓の音がいつになく大きく、大して動いてもいないのに息が上がっていた。ドサイドンもかなり消耗しているが、カメックスの立っていた場所をしっかりと足で踏みしめている。カメックスのほうは、小さく身じろぎをしたように見えたが、やがて動かなくなった。目の前で、しかも自分が指示したことにも関わらず、俺はすぐには何が起こったのかを呑み込むことができなかった。
縋るような気持でねえさんを見ると、ねえさんはひどく悲しそうな顔をして俺を見ていた。きっと、同じような顔をしている。
一歩踏み出した。それはもしかしたら、緊張が解けてよろけただけかもしれないが、それを合図にしたように、ねえさんと俺はポケモンをボールに戻し、互いに歩み寄った。そのときに、ふいに激しく広間が揺れ出した。
「な……なに!?」
咄嗟に辺りを見回すと、不意に地面のあちこちから、ディグダやダグトリオが顔を出しては引っ込んでいく。
「……さっきのうずしおに巻き込まれたディグダ達の群れかもしれない……きゃあっ!!?」
「っ!!」
ねえさんの立っていた地面が、表面のぬかるみごと掘り返された。このままじゃ地面の中にひきずり込まれる。咄嗟に駆け寄って、掘り返された隆起の上から手を伸ばそうとしたときに、ねえさんが叫んで、俺のほうに手を伸ばした。
「シルバー! これ!!」
一瞬だったけど、はっきり見えた。サカキだ。赤ん坊を抱いている、お父さんの写真。
ねえさんの手首に俺の手はぎりぎり届かないだろう。けど、写真を掴めば彼女は手を離してしまうかもしれない。だったら。
手を伸ばし、写真を掴んで、瞬間的に思い切り引っ張った。反射でねえさんの指に力がこもったために、写真はもともと破れていたところからまっぷたつに裂けたが、引力によって僅かに俺とねえさんとの距離が縮まり、掌を掴んだ。だが、そのために、俺も安定した足場を失う。
「馬鹿!! なにやってるの!!?」
酷く取り乱したその声に思わず顔を向けたら、ねえさんが子供みたいに泣きそうな顔をしているのに思わず笑ってしまった。
応えている余裕なく、もう片方の手でボールの開閉スイッチを押した。ドサイドンの腕が伸びて、俺の身体を掴んだ。ドサイドンが持ち前の重量で地面を踏み固めて持ちこたえてくれていて、ほっと息をついた。