pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
リクエスト「シルブル」
「調子はどう?」
ブルーは崩れた本の一角から適当な一冊を拾い上げ、読む気もなさそうにページをめくりながら尋ねた。シルバーは先ほどまで読んでいた本に、栞代わりのはがき(出版社へご感想をお送りください、のあれ)を挟みながらうなずく。
「うん、順調だよ」
「あとね、これ、ゴールドからの預かりもの。たまには息抜きしろ、って」
ブルーは小さな包みを洒落た鞄から取り出して弟分に渡した。シルバーがそれを開けてみると、中に入っていたのは電池式のラジカセで。
「……ここ、電波悪いんだけどな」
ぽそりとシルバーがつぶやく。
「メインはこっちじゃないの」
ブルーが黄色のマニキュアでコーティングされた爪先でボタンを押すと、カセットテープを入れるところが開く。そこには既にカセットが入れられて、シルバーがなにげなしにつまみ上げると、A面に貼られたシールにはあの友人の大好きなクルミちゃんの歌のタイトルがずらりと並んでいた。妙に浮かれた、それでいて得意そうな筆跡だ。彼の屋敷に滞在中によく目にしたし耳にもしたので、シルバーもしっかり覚えていたのである。思わず、あいつ、と呟いてげんなりしそうになったが、掌の上のものをブルーがひっくり返し、シルバーは目をみはった。
「…………いい友達じゃない? A面がクルミちゃん、っていうのがあのこらしいけどね」
B面には、タウリナーやらブロムヘキサーやらの主題歌や挿入歌、いくつかのBGMのタイトルがぎっしりと書かれていた。気のせいだろうか。どこかしらぎこちない、几帳面な筆跡。
「うん。……ねえさん」
綻びかけた口元のままシルバーはゆっくりと呟いた。なあに? とブルーも微笑んで返す。そしてシルバーはお定まりの一言を口にするのだ。
「また、誰かを振ったの?」
ここ三ヶ月ほど、ブルーは、よく男友達と遊んでいる。
というのも、彼女自身が恋人を欲しいと思ったからで、しかもその対象を自分で見つけ出してみたいと願ったからなのだった。ブルーはなかなかの容姿だったし、それに明るくて口も上手かったから、バトルをしたり、街を歩いているだけでもそこそこの出会いがあった。ナンパをするような軽い人もいれば、案外に誠実な人もいたのだが、問題はブルーのほうにあった。友達としてなら良い。だが、恋人として見ようとした途端、抗い難い嫌気がさしてしまうのだった。
「……二十一歳。大学生。中流家庭。容姿よし性格よし」
再び本に目を落としはじめた弟分の横、指折り数えながら、ブルーは大きな溜息をつく。
「今度は大丈夫だと思ったんだけどなあ」
「そういうこと繰り返してると、へんな噂、流されるんじゃない」
「へんな噂?」
「男を弄んでるとか」
「ちょっと、どこでそういうの覚えてくるの」
「ゴールドの家で見たドラマ」
「やだ、どんどん可愛くないこと覚えちゃうんだから」
暗に非難してブルーは敷き毛布の上に転がった。真っ白な毛のコートを着たままだ。シルバーが横目で窺うと、長い髪の向こうでイヤリングが光ったのが見えた。
「ちょっと」
思わずシルバーは声に出していた。思いのほかとげとげしい声色になったが、ブルーは気にした様子も無く、毛布の上に転がったまま、きょとんとしてシルバーを窺っている。
「……何でも無い」
言うはずじゃなかった。シルバーは後悔とともに視線をそらしたが、ブルーはそれを見てにやっと笑った。
「なあに? 言いなよ」
「何でもないよ」
「さっき言いかけたじゃん」
「忘れたんだ。思い出したら言う」
「嘘。あんた、こういうどうでもいい嘘つくの下手だよね」
顔に出てると笑われて、シルバーはもうどうにでもなれという気持ちで頭を振って、吐き捨てた。
「毛布、使わないで」
ブルーが意外に思うどころか笑みを深くして、「どうして?」等と聞いてくるのにシルバーは意地が悪いと訴えたくなる気持ちを抑えて、声を絞り出す。
「嫌い。その、香水とか、化粧とか……においが…………嫌いだ」
多分、義姉に対して嫌いという言葉を向けたのは初めてだ。その事実がなんだかとても苦々しく、まるで自分で自分を傷つけているようで不快だった。引け目を感じて伏せていた視線をそろそろと上げ、シルバーがブルーを窺うと、彼女は意外にもとてもやさしい顔をしていた。
「……知らない人、みたいで?」
なにかを促すように、ブルーはささやいた。
シルバーは彼女の言ったことが、もやもやしていた自分の気持ちにぴったりと嵌ることに驚きを覚えながら、頷いた。するとブルーはにっこりして言った。
「じゃあ今度来るときは、香水も化粧もしないことにするわ」