忍者ブログ
2026.06│ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
2026年06月22日 (Mon)
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2014年12月29日 (Mon)
リクエスト「シルブル」



「じゃあ今度来るときは、香水も化粧もしないことにするね」
「……なんでうれしそうなの」
 楽しげに毛布から身体を離した彼女とは対照的に、一気に疲れた気分になってシルバーは呟く。ブルーは鞄を持ち、来たときの姿のまま外に出て行って、しばらくして、また戻ってきたときには、バッグは持っていなかったし、コートも羽織っていなかった。ホルターネックの黒いワンピース一枚の姿で、足にはストッキングもハイヒールもなかった。
 流石にぎょっとして、シルバーは書物から顔を上げたまま固まる。
「ねえさん」
「どう? まだにおうかな?」
「いや、大丈夫だけど。そうじゃなくて」
 よく見ると顔が首筋が濡れていて、近くの川で化粧を落としてきたらしいことが知れる。この樹海は決して暖かくないというのに、無茶をするものである。
「寒くないの」
「うん、でも、あのコート、におい取れなくてさ。煙草の臭いももすごいし。ストッキングも濡らしちゃって冷たくて。何か履いてないと、ハイヒール靴擦れしちゃうし、それにね」
「も、いいって」
 放っておけばいつまでも喋り続けそうなブルーを押しとどめて、シルバーは立ち上がり、先ほどの毛布を拾い上げると、その肩にかけた。あまり丁寧な手つきでなかったのは、多目にみてもらいたい。ブルーはしばらくきょとんとしていたが、定位置に戻った弟を見て、首をかしげる。
「いいの? 多分あたしまだ、におい全部とれてないと思うんだけど」
「うん。風邪ひくよ」
「ひかないわよ、これくらいで」
「前もそう言って、嘘だったじゃないか」
 ずっと小さな頃に、ブルーがそう言って小さな弟に毛布を譲ったときのことを蒸し返して、シルバーが言う。これで少しでもブルーが言葉に詰まりでもしてくれれば多少は胸もすくのだったが、ブルーはあくまで悪びれずに、「大きくなったんだから今はちがうわよ」と言ってのける。
「……資本主義の——これは経済学ね、……心理学、これも心理学? 生物、また経済……法律」
 ブルーは芋虫のように毛布を身体にまきつけながら、積み上げられた本のジャンルを順繰りに読み上げていく。
「あんたのパ……、サカキを相手にするなら確かにあったほうが良い知識だとは思うけど、ここに閉じこもってもう二月でしょ。気分転換とかしたほうがいいんじゃない」
「そうかな」
「棒読みで言うんだから」
「……ねえさんここ分かる?」
「どこ?」
 話している最中もずっと本に集中していたシルバーは、何気なく呟いた一言のあとに、突然視界の端に降りて来た髪の毛の一房に驚いた。続いて例の、きつい香料のにおいが鼻についた。
(整髪剤、落とし忘れてる)
 出来る限りその香料から意識を逸らそうとシルバーは文字の塊で視界を埋め尽くそうとしたが、どう頑張っても端にはちらちらと茶色い房が揺れて、むっとするような甘い香りは否応無く鼻孔に満ちて喉を圧迫する。においそのものというよりは、それに対する熾烈な感情が、集中を途切らせて心を乱す。得意とする工学系の分野だっただけに止めどないブルーの解説も、シルバーの頭には上手く入ってきてくれなかった。今まで彼女との間に苛立ちらしい感情など一切介入の余地が無かっただけに、シルバーは驚きと自己嫌悪に溜め息をつく。
「シールーバー」
 そんな弟分の心境を知ってか知らずか、ブルーは無邪気に、彼を背中から抱きすくめる。ちらとこちらを窺った彼の表情に、今まで見たことのなかった億劫そうな色を認めて彼女は楽しそうに微笑む。
「そんなにこのにおい、嫌い?」
 不意打ちで尋ねてみれば、抱き締めた身体がひくりと跳ねた。
「…………うん……」
「あたしはこういうのも嫌いじゃないんだけどなー」
「……ごめん」
「どうして謝るの?」
 静かに呟いて、友人の屋敷に世話になっていたころに比べても無精になっているのだろう、ブルーはすこしぱさぱさした髪の毛を撫でるように梳いた。
 恋人探しを始めて暫く経つと、ブルーはシルバーから貰った服を着なくなった。そのかわりに、可愛いには違いなくとも、以前に比べればすこし派手な格好を好むようになった。あるていど遊びじみた体なら、告白するにも期待は薄いだろうし、告白を断られた男もそれほど傷つかないだろうというブルーなりの配慮でもあったし、それに少々の後ろめたさを伴うことをするときには、こういうキャラクターのほうが彼女の性に合っていた。
「そんなに嫌なら、止めさせてみたら」
「……?」
「あんたが、あたしをあんたのいいようにさせるのよ、分かる?」
 その言葉を、まるで理解できないという顔をして、ただまじまじと見詰めてくる義弟に、義姉はとけそうなほどやさしいまなざしを注いだ。
←No.189No.188No.187No.186No.185No.184No.183No.182No.181No.180No.179
Search
Profile
管理人: tonerico
PR