馬鹿は褒め言葉です。
男ってなんでこんなに馬鹿なのかしら、とブルーが思うときは多々ある。色仕掛けには引っかかる、ちょっと着飾ればこちらの言い分を疑いもしない。けれども、いまだかつて、今日この瞬間程、それを実感したことは無かった。目の前にはいかにも睡眠不足な体の男、二人。こんな美女を目の前にしてうつらうつら、舟を漕ぐのに忙しい。全くなんて馬鹿なんだろうとブルーはオレンジジュースのコップを手に溜め息をつく。
珍しく三人揃って顔を合わせた理由は簡単、図鑑の定期検査である。定期的にオーキド博士に図鑑とポケモンのデータを提出する日。レッドと、珍しいことにグリーンも、五分の遅刻だった。軽い気持ちで理由を尋ねてみたら何てことはない。二人してゲームに熱中し、気付けば夜を明かしていたというのだ。レッドはともかく、ゲームに夢中になるグリーンってどんなかしらとブルーは思った。ゲームという娯楽機器よりも、本の虫というイメージのほうが先行する彼だけに、その彼がゲームで夜を明かすなんて、なんとも意外だった。ばかみたい。
ブルーはふとあちこちを旅しているであろう義弟のことを思い出す。彼は、ブルーの知っている男の中では一番賢い男だった。物静かでストイックで、クールだった。過去形である。同性の悪友が出来てからのここ二年というもの、少しずつではあるが確実に、目前の馬鹿共に近付いているような気がする。そういえば彼の悪友も、目の前の二人に負けじと馬鹿である。馬鹿って伝染するのかしら。ちなみに義弟だってこのままでは馬鹿ルート一直線だ。ということはブルーだって知っている。
うとうとしていたレッドがついに鼻提灯を膨らませはじめた。ブルーはほぼ無意識のうちに、テーブルからボールペンを拾い上げて、目の前のそれを割る。ばちん。
「ふわ? ……あれ、ブルー? 俺ねてた?」
「しっかり寝てたわよ」
「グリーンは寝てる?」
「……起きている」
腕組みをして目を閉じているグリーンは返事をしたが、目蓋を持ち上げるのもつらそうだ。
「ほんっと熱心よね、あんたたち。ゲームしたって何も得するわけじゃないのに」
「だってさあ……なかなか決着がつかなかったんだって。なあグリーン」
「そうだな。どこかの誰かが負けた直後に食ってかかってくるからな」
「お前だって俺が勝ったとき同じことやってただろー」
「ふん」
「あんたたち……馬鹿じゃないの」
「そうだ! ブルーも一緒にやろうぜ、三人対戦!」
「ちょっとあたしの話聞いてた?」
「なんだ、やらないのか? 楽しいのに」
さっきまで、馬鹿だ馬鹿だと言っていたのに、馬鹿なことばかり口にするその顔があまりに楽しそうなものだから。
「……やらないなんてひとことも言ってないわよ、馬鹿ね」
決して羨ましいとかじゃないけれど、とブルーは自分に言い聞かせるようにつぶやく。今回だけは、あたしも馬鹿になってあげる、それだけだわ。
それから数日後のとある朝。寝不足の顔が三つに増えていたのは、言うまでもない。