pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
リクエスト「レッド/グリーン/ゴールド/シルバーの先輩後輩小説」
「よっしゃー!!」
青空に歓声が響き渡る。やるじゃねーかシルこう、ニューラもな! ゴールドのハイタッチに応えるシルバーに表情は無かったが、満更でもなさそうだ。
後輩達の微笑ましい光景を遠目に眺めながら、唖然とした状態からようやく立ち直りかけていたところだった。穴だらけの雪原には、彼らの最後のポケモンだったカビゴンが伸びている。一方その向こうにはニューラと、ほとんど体力の尽きかけているトゲたろう。バトルフィールドを眺め渡すと、半ば呆然としたままのレッドが小さく呟いた。
「参ったな」
グリーンはちらとその横顔を窺う。目の焦点が一点を見据えてぶれない。
「まさか負けるなんて」
ゴールドとシルバーが組んだときの戦い方は、一言で表すならかなり無茶だ。オーキド博士に、無茶加減はレッド以上だと言わしめるゴールドは生粋のギャンブラーでもあり、一見無謀にも思える賭けにも果敢に挑んでくるし、究極技を一瞬で習得する並外れたセンスを持つシルバーはシルバーで、元々の実力が高いために力押しをすることにも怯まない傾向がある。加えて厄介なことには、とにかく勝負強いのだ。ゴールドは無謀にすら勝機を見出し、シルバーはとにかく勘が鋭く、おまけに二人とも純粋な実力差ではレッドとグリーンに勝つのは難しいと分かっているから……、更に拍車がかかるわけである。
トゲたろうがゆびをふって、たまたまかえんほうしゃがハッサムに当たり、ニューラのきりさくが、手負いのカビゴンの急所に当たった。おそらくはたまたま運が良かったに過ぎない。しかし、先輩二人からしてみれば、不覚。その一言に尽きる。
それだけならまだしも、ふと、グリーンの頭を嫌な考えが掠めた。今更になって、タッグバトルの間に、何かしらの違和感を感じていたような気がしはじめた。レッドの声。轟音、雪しぶき。何も変わったことなどなかったはずだ。何かが引っかかっているのに、その正体は雪景色の向こうにぼやけて掴めない。なんとか目を細め、手を伸ばそうとした矢先に目の前の光景が風に攫われた。
「もう一戦。次は負けないさ、なっ、グリーン!」
底抜けに明るいレッドの声だった。顔を上げれば、レッドその人、それから、少し離れて立っている、ゴールドとシルバー。今日も、よく晴れている。先ほどまで感じていた不透明な靄はどこにも見えない——止めよう。だいいち気のせいかもしれないんだ。
「ああ。休憩と作戦会議、三十分、その後再開でいいな」
望むところっスよー! ゴールドが手振りを交えて叫ぶが早いか、シルバーの肩に腕をまわして体重をかけつつ何か言っている。すっかり順応したらしいシルバーは反応らしい反応もなく応えている。その光景を一言であらわすなら、意外。グリーンが不意に視線を感じて首だけで振り向くと、目の合ったレッドはすこし肩をすくめるしぐさをして、遠く後輩たちを仰いだ。
「仲いいよな、あいつら」
仲がいい。何かあるごとに距離の近いあの様子は、確かにその言葉がぴったり嵌るような気がする。
「ゴールドはともかくさ。シルバーは、あんまりゴールドのこと意識してないみたいだし、だからなのかな。なあグリーン、おまえシルバーからゴールドの話、聞いたことある?」
「無いが……もともとシルバーが口数が少ないだろ。それに俺とゴールドじゃ、接点が少な過ぎる」
そうかあ、俺はよくゴールドからシルバーのこと聞かされたんだけどなあ。とレッドが呑気に言う。最も彼らの後輩達が、彼らとはまた毛色の違ったトレーナーであることも確かなのだが。
レッドが電話したとき、ゴールドはジョウト小旅行中で、ちょうどチョウジにいるらしかった。彼はたまに、宛もなくあちこちをふらふらしている。その目的はポケモンを強くするためでも、自分を鍛えるためでもなくて、単に楽しみのためだった。遠出して野っ原で夜を明かしたり、久しぶりに訪れた土地の変化に驚いたり、あるいはまったく変わっていないことを笑ったりするのが彼の楽しみらしい。純粋に強さを求めることよりも、そうして他愛もない毎日をポケモン達と過ごすことを重要に考えている彼は、何かの目的でもなければ修行しようとも思わない性質のようだが、今のところ、ライバル視しているシルバーの存在が彼のやる気の原動力となっているのもあって、かつて一緒に修行したこともある先輩に誘われ、しかもシルバーも誘うつもりだと告げられれば、一二もなく食いついた。
一方、グリーンの連絡したシルバーのほうはといえば、相変わらず一所に留まらない生活をしている。街中にいることもあるが、人気のない森や山に籠っていることも多く、ひょっとすると電波の届かないところにいるので、メールを送信しておいた。彼が何を考えて、いま何をしようとしているのか、比較的懇意にしているグリーンすらも、あまりよく知らない。ただ確実なのは、かつてカントー最強と謳われたトキワの先代ジムリーダーであり、同時にカントー全土を恐怖と混乱に陥れたロケット団の首領であるサカキが父親と分かってからというもの、ひたすら修練を積んでいるということだ。
二人にはいつも何かの目標があって、修行や数々の戦いは手段の意味合いを多く持つ。ライバル意識や、強くなることを純粋に楽しむ側面もあるものの、おそらくそれが手段を超えることはない。きっと、バトルや修行のこと以外でも、彼らはお互いを知っている。
「……俺らもああする?」
「なぜ」
「やっぱイヤか?」
めずらしく食い下がるふうのレッドに驚いてふたたび顔を向ける。レッドは驚くほどまじめな顔をしていて、グリーンは、嫌に決まっているだろうと言いかけた台詞を呑み込んだ。
「嫌、……というか……何か違うだろ」
「うん、違うよな。わかるけど」
レッドはいったん言葉を切った。
「……俺さ、わけもなくグリーンってずっと傍にいるもんだと思ってたよ。でも今考えると、ホントなんの根拠も無かったんだよな。考えてみればさ、最初の旅が終わって以来、お前と会うのなんて何かの事件にあったときと、数ヶ月に一回、俺がジムに行くときくらいだ」
それはグリーンがここ数日考えていたことと寸分違うところがなかったが、グリーンは驚きはしなかった。むしろ、その次の言葉が分かったくらいだ。
「今になって、どうしてだろうって考えるんだ。いつも、考えるより先に——」
「せんぱーい!!」
レッドの独白はゴールドの呼び声によって中断される。反射的に二人が顔を上げると、いつの間にかゴールドとシルバーが先ほど立っていた場所よりも向こうの岸壁の前で、大きく手を振っていた。レッドとグリーンは思わず顔を見合わせて、無言のうちに歩き出した。
踝あたりまでを雪の中に埋めながら、二人が後輩たちのところにたどり着いたとき、背を向けて胡座をかいたゴールドのかわりに、彼を見下ろしていたらしいシルバーが振り返った。ゴールドの丸まった背中の向こうに見える影を、レッドは覗き込んだ。
「……そいつは」
ゴールドの前には、ゴマゾウの子供が五匹、散らばるように倒れこんでいた。彼らは一様に弱り切っていて、雪の上で細い息を繰り返している。
「モンスターボールを持って来てませんか」
「ああ」
シルバーの言葉にグリーンは頷いて、ボールに彼らを収めた。少なくともこの雪山の気候よりは、はるかに快適だろう。
「あと一匹は?」
ふと気づいて、レッドが言った。ゴールドがもう一匹のゴマゾウの手当てをしているらしい。ゴールドはむつかしい顔をしたまま、視線を離さず、わかんねえ、とひくく呟いて、やがて手を離した。
「……後は、お天道さんに祈るばっかりさ」
ゴールドは息をつき、それから大きく息を吸い込むと同時に、顔を上げた。彼のズボンは微かに血でよごれていた。組み合わせた膝の中には、ぐったりしたゴマゾウのこどもが埋れている。その子は、決して幼すぎはしなかった。後ろ足の爪は強く鋭く伸び始め、皮膚は硬くなりつつあり、あどけなさの残る顔立ちに、決してわざとらしくない精悍な色が垣間見えはじめる、大人になろうとする年の頃。これから彼は分厚い皮を纏い太い足て地面を蹴り、勢いをつけて丸まって転がったり、あの頑強なドンファンの子らしいことをしてゆくのだという希望と不安とともに、生涯でもっとも美しい時候の一つを迎えたばかりのこどもの、いくらか彫りの深くなったその顔の真ん中には、彼らが生活するのにもっとも重きを置く器官——鼻が無かった。顔の中心部には、ずんぐりした膨らみが綺麗に巻かれた清潔な布につつまれているばかりだった。
レッドは無言でしゃがみこむと、最後の一匹にモンスターボールの開閉スイッチを押し当てた。
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