pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
リクエスト「レッド/グリーン/ゴールド/シルバーの先輩後輩小説」
「……って、言ってやったんスよ!! あのヤローに!!」
熱に浮かされて語気を荒げるゴールドの声が、凍りついたクレバスに反響する。耳の片隅で野生のポケモン達が警戒を強める気配を感じ取ったレッドが慌てて、人差し指を唇に当てる仕草で後輩を諌めた。それを見てゴールドも、自分がずいぶん熱くなっていたのを自覚してか、スイマセン、とつぶやいて小さくなった。
「けど、あのタイミングで引き上げなきゃ、他のゴマゾウも危なかったんだろ?」
「かー! 分かってない、分かってないっスよレッド先輩! 数の問題じゃねえ、だってあのゴマゾウは一匹しかいねえんだ」
「ゴールド、こっち。ポケモンの声が聞こえる。シロガネ山の洞窟に繫がってるみたいだ」
聞いてくださいよ先輩と大袈裟に嘆きながらも、ゴールドはレッドが示した横穴を覗き込む。それは横穴というよりは通り道といったほうがよさそうで、高さは五メートル以上、幅も三メートル程の大きさで、氷壁が縦に裂かれている。
「ここまで歩いて見つからなかったってことは、巣に運び込まれているのかもしれない。ゴルバットの巣だったら、俺も心当たりがある」
「巣まで行きます」
即答したゴールドにレッドも頷き、二人はその横穴に足を踏み入れた。
横穴の中は、天井も壁も床も雪と氷に覆われて真っ白く、ぼんやりとした青い影が雪の凹凸をうつしだす。こんなのテレビでしか見たことねえ、とゴールドが感嘆の声を洩らしたのもつかの間、進むにつれて洞窟の中は徐徐に暗くなり、影は薄青から灰色へ、そして黒へと変化していった。光量が減るにつれて、自分たちがいた場所からどんどん遠ざかっていって、戻るのが極めて困難になっていく気がした。暗闇に押し込まれ、凝縮される。もう、後ろを振り返っても闇がすぐそこに迫っている。
「……なんか、別の世界に来たみてえ」
ぽつりとゴールドが、強がろうとして失敗したような声でつぶやいた。
「そうか?」
答えるレッドは、能天気な声だった。実際、彼はいつもどおりだった。
能天気だと、よく言われる。特に、洞窟や森に誰かと入ったときには。修行のために洞窟に来るポケモントレーナー達は、修行の間は洞窟で平然として過ごし、修行が終われば平然として洞窟から出て行く。その点はレッドも同様ではあったが、彼が他と違うのは、何の理由もなく洞窟に滞在しても別に構わない、と思える点だった。
「よくもまあレッド先輩は好き好んでこんなとこ来てますよね」
「へ? なんで」
「名物があるわけでもねえ、ゲーセンもねえ、何よりラジオの電波が届かねえ! 修行ならともかく、俺一人じゃぜってー来ねえっス」
「ああ……ゲーセンにラジオか……確かに。思いつかなかった」
「なんでんな平然としてるんスか。俺にとっちゃ死活問題っスよ」
「でも、ポケモンが一緒だし、グリーンだっているんだ」
「……え? グリーン先輩?」
「あ、いや。一緒にいなくても、グリーンも俺とおんなじように、強くなろうとしてるんだって思うとさ。負けられないだろ。ゴールドだって、シルバーが」
「もちろんっスよ! ……………と、言いたいとこなんスけど」
ゴールドの言葉はどんどん小さくなって、尻窄みになる。不意に彼の表情から、調子の良い明るさが消えた。
「……マジな話、あいつには敵わねえ。最初会ったときからずっと。あいつは、俺がさんざん苦労した究極技だって一瞬でものにしやがった。バトルの強さだけじゃない、背負うもんの重さも、覚悟も、何もかも、あいつに勝ったと思えるものなんて一個もねえ」
突然の告白に、言葉を失ったレッドに気付くと、ゴールドはにやりと笑ってみせた。
「驚いたっスか? へへ……、だけど、認めたわけじゃねえんスよ。あいつのこと。一目見たときから気に食わねえんで、絶対認めねー」
その、ゴールドの言葉に、声の調子に、不意にレッドはある記憶が蘇るのを感じた。
——へえ、レッド先輩の旅立ちってそんなんだったんスねー
以前一緒に修行したときに、ゴールドはレッドの旅立ちの動機を意外そうに聞いていた。その反応はレッドのほうとしても意外で(ポケモントレーナーとして技を磨く以外に旅に出る理由なんて思いつかなかったので)、彼もまた尋ね返すと、ゴールドは、たいした理由じゃねえっスよ、と笑った。
——最初は、まあ家のポケモンをシルバーのヤローに盗まれたと思ったから追いかけてったんスけど……、まあ要は、あのヤローが気に食わなかったんで。あいつに会わなきゃ俺、いまもワカバタウンであのまんま暮らしてたんじゃねえかな、それもそれできっと楽しかっただろうとは思うっスけどね
事も無げにそう言ってのけることのできるゴールドが不思議だった。切っ掛けはどうあれ、気付いたら走り出してしまっていたのは同じだったはずなのに。一歩踏み出してみたら楽しくて、止まれなくなって、もう、戻れなくて。ゴールドみたいにあちこちを遊び回るかわりに、レッドはジムに、海に、洞窟に、草原に、森に、川に、そして山にいる。戦える場所にいる。人と喋り、ポケモンと歩き、美味しいものを食べる物見遊山、それだけのことに、楽しいじゃないっスか、と笑っていられるゴールドは不思議な存在だった。確かにレッドとて、そうして外遊することも少なくなかったし、素直に楽しいと感じる。けれどもずっとそれだけをしていられるというのには、まったく不思議だった。実際、彼は自分でも休息と戦場の境目が分からないことがままあったので。たまに、ひょっとしたら休息すらも戦いの中にあるのではないかと思うくらいだ。
その点においてレッドとグリーンは似ていた。息切れするなど知らないまま、二人で、走り続けることができた。いつも、姿形が見えているわけじゃないけれど、世界のどこかでお互いが同じ場所を目指して歩き続けていることを知っていたから、代わり映えもしない景色の中で黙々と歩を進めることができた。夢をいっぱいに映し出す網膜の端には、いつも同じ夢を抱いた少年の姿があった。約束をするまでもなく、彼らはお互いに当たり前のように繫がれていた。
想いの形は違えど、ゴールドとシルバーも同じように繫がれているなら。
突然、レッドがぴたりと足を止めたので、ゴールドもその背にぶつかった。急に立ち止まらないでくださいよ、というゴールドのぼやきは無視して、レッドはまじめな顔で振り返る。
「……ゴールド。シルバーは、ヤミカラスとニューラが戻ってきて、『間に合わなかった』って言ったんだよな」
「へ? ……そうっスけど」
「……ヤミカラスかニューラが、ゴマゾウが止めをさされるのを、見たんじゃないのか?」
ゴールドは一瞬黙った。そして苦々しい表情で頷いた。
「…………。あいつのヤミカラスもニューラも、多勢に無勢とはいえ野生のゴルバットの群れにひけをとるほど半端な育て方はされてねえ。戻ってきたあてことは、多分……そういうことじゃねーかと…………けど、俺はまだ、諦めてねえ。それだけっス」