pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
リクエスト「レッド/グリーン/ゴールド/シルバーの先輩後輩小説」
食事の後に、グリーンとレッドの修行がどんなものだったかと尋ねたのもゴールドだった。横でレッドが喋るのを手持ち無沙汰に聞いていたグリーンは、時折訂正を差し挟んだ、というのも、殊更好敵手同士ではありがちなことではあるが、レッドは話を誇張したがる癖があったからだ。先輩として後輩に接する態度に相応しく、はじめレッドは節度ある態度を保とうと努めていたようすではあったが、話に熱中してくると、選ぶ言葉や声の響きが酔ったような熱を孕みはじめる。それは決して短所とも言い切れない特徴ではあったが、この場合、レッドが、リザードンの炎が分厚く積もった雪に大きな穴をあけたことや、ニョロに指示を出しながら自分がどんなことを考えていたかということを話す間の、自分やグリーンへの素直な賞賛とともに、ほんの無邪気な感情——自分が好敵手よりも優位に立っていたことを主張したいという思いが見え隠れする。そういうとき、グリーンは倫理的な教師としての側面よりもむしろ、彼の良き好敵手の義務として、文句のひとつも呈さなくてはいけないということだ。
話の途中、危ない局面はいくつかあったものの、幸いにして、二人とも先輩としての尊厳をまるきり忘れてしまうまでには至らなかった。とはいえゴールドは最後のほうにもなってくると、レッドとグリーンが張り合うのにすっかりあきれ果て、肩をすくめてシルバーに目配せをしてみたり、シルバーは先輩たちが言い争うのをふしぎそうに眺めるのだった。が、意地の張り合いもほどほどに、何とか最後の場面まで話し切ってしまったのだから、この話し合いはとりあえず後輩への訓示の体を保つことができたわけである。後輩二人は先輩達があまりにも張り合うのに唖然としてはいたが、話の内容自体はポケモン研究の専門用語を使うようなレベルの高い戦略もいくつか混じっており、先輩達が言い合っているあいだに、時たまシルバーがゴールドにくだけた解説を差し挟まなければならなかったほどである。そのために、話が終わった後でも、後輩二人の目から尊敬の色が消えたわけでもなく、かえってやや強まったくらいだった。
それからは皆で話す種もなくなったと見え、ゴールドはピカとピチュに混じって遊び、レッドとグリーンはさっきの話の続き(後輩の手前、打ち切った意地の張り合い等もろもろ)をはじめ、シルバーはブイやニューラと一緒に入り口付近に座ってぼんやりと外の様子をうかがっていた。グリーンと、おそらくレッドも、それから後輩達のあいだに何かやりとりがあったのか、よく覚えていなかった。しかし話にひと区切りがついて気がつくと、ゴールドはピカとピチュと、半端に寝袋に包まった状態で眠っていて、シルバーも然りだった。シルバーの寝袋からは、レッドのブイが顔だけ出して眠っていて、傍にニューラが丸くなっている。レッドとグリーンは顔を見合わせてみて、互いにちょっと肩をすくめた。無言のまま、レッドが殆ど尽きかけていた焚き火を靴で揉み消した。
真夜中、ふっとグリーンは目を覚ました。その切っ掛けが物音だったのか、それとも話し声だったのか、それはわからないが、不意に誰かが動いた気配を感じ、条件反射的に目を開くと、携帯用LEDランタンの白い光の中に、ぼんやりと人の影が揺らいで、間もなくして消えた。
微睡みのなかにあった意識が再び引き上げられるまでに時間を要した。洞穴内の空気には、まだほんのりと温もりの名残が感じられる。寝袋を剥いで起き上がってみると、薄明かりの中、ほとんど冷たくなった薪の向こうでゆっくりと上下する膨れた寝袋の隣に、空の寝袋が無造作に脱ぎ捨てられている。そこから少し、洞穴の入り口に近い場所で、人が起きているが、暗闇にまだ目が慣れず、誰かまでは判別できない。が。
「シルバーか?」
なんとなく、そう思った。すこし送れて、はい、と闇の向こうから平坦な声が返事をする。グリーンは再びちらりと空の寝袋に視線をやった。
「レッドは」
「散歩と」
ポケギアの画面を見る。午前三時。耳を澄ましても風の音が聞こえないあたり、天気は良いのだろうが、と内心グリーンは溜息をつく。覚醒の直前に聞いた気がした話し声なり物音なりは、レッドだったのかもしれないと思い当たる。もっとも、目の前の後輩相手に文句を洩らしてもしかたがない。
「お前もレッドに起こされたのか」
だとしたら気の毒だ。しかしグリーンの言葉を黙って聞いていたシルバーは、暫く黙った後、素っ気なく視線を逸らす。それはどう答えてよいのか分からないための仕草にも見えた。
「もともとそんなに深く寝ていないんだ……」
歯切れのよくない返答ではあったものの、シルバーは平常、たいていのことなら驚くほど妥当な判断をする(とグリーンは見ている)から、おそらく問題はないのだろう。
「……お前が大丈夫ならいいが」
「先輩こそ」
引き下がったグリーンに、シルバーは控えめに笑った。いつの間にか闇に目が慣れてきたらしく、彼の表情まで見えるまでになっていたが、すっかり目は覚めてしまった。グリーンはしっかり眠れているつもりでいたが、やはり急激に変化した環境に、身体のほうが緊張しているのかもしれない。寝直す気にもなれず、焚き火の傍に転がっていた点火棒で固形燃料に火をつけ、薪の中心に置いた。
それに比べて、とグリーンは空の寝袋の隣を見る。ゴールドはぐっすりと眠り込んでいて、起こしたって起きそうにない。寝袋の合わせ目から、ピチュの尻尾の先だけぴょこんと飛び出している。ピカとブイはレッドについていったのだろうか。
「ゴールドはよく寝ているな」
「あいつはいつもあんな感じだ」
語尾にこころなしか呆れの滲んだグリーンの声に、シルバーがフォローなのかそうでないのか曖昧なコメントをする。投げやりにも聞こえるその言葉の響きが意外で、グリーンは思わず尋ね返していた。
「ゴールドとはよく会っているのか?」
え、とシルバーは目を丸くした。グリーンがよもやそんなことを尋ねるとは思わなかったとでも言いたげな顔だが、彼は答だけを淡々と口にした。
「以前、あいつの家に暫く厄介になったことがあって、それで今もたまに」
そのときグリーンの脳裏に、いつかのレッドとの他愛のないやりとりが思い起こされてきた。
いつものように休日のトキワジムに訪れたレッドが、そういえば俺たちって一緒に遊びに行ったりしないよなあ。そう言った。なんだいきなり、と答えたグリーンに、うーんとレッドは煮え切らなさそうに唸って、言い訳のように口にした。いやゴールドに言われてさ。何を。あいつ、シルバーと遊びに行ったり、シルバーを家に泊めたりするんだってさ。その言葉を聞いたときに、グリーンは殆ど無意識に、何で、と尋ねていた。レッドは困ったように、俺もそう言ったんだ、と一拍おいて、急にまじめな顔になって答えた。そしたら逆にゴールドがすげえ驚いてた。と。
それからこんな話をした、レッドが、お前俺と遊びに行きたいとか思う? と言って、グリーンは、別に思わない、と答えた。なんだよそれ傷つくなー、と形ばかりの文句を言ったレッドは少し置いて、俺も、とこころなしか嬉しそうに同意した。
違うんだ、あのときの言葉はそうじゃなくて。思わない、というよりは、想像できない、のほうが正しい。グリーンにとってのレッドは、そういう存在ではなかった。そうしょっちゅう会うわけでもない。互いの家や遊びに行くわけでもない。好きな料理や、趣味や、家族のことも殆ど知りもしない。なのに、グリーンにとってレッドは誰よりも近しい存在だった。唯一無二、彼がいなくなればグリーンもまた、グリーンではいられなくなるように感じていた。
ふとシルバーが顔を上げたことに、グリーンもつられて入り口に視線をやると、ちょうどレッドが戻って来たところだった。防寒着の襟元にピカを突っ込んだ姿で洞穴内に足を踏み入れ、あったけーと小さな歓声を上げた。
「お、グリーンも起きてたのか」
「どこに行ってたんだ」
「散歩がてら、今日どこで修行するか下見にさ。あー寒かった!」
シルバー留守番ありがとな、と笑うレッドに、シルバーは短く、いえ、と答えるのみで相変わらず素っ気ない。こいついつもこんなですけど悪い奴じゃないっスよホント! というのはゴールドの弁。特にレッドはゴールド経由でシルバーのことを図らずも聞く機会が多かったらしいので、無愛想な後輩の扱いも手慣れたものらしい。
「な、朝飯前にちょっと身体動かしてこないか?」
「……お前は……」
昨日の今日で、流石に呆れてグリーンは溜息をつくが、レッドはきょとんと首を傾げる。
「? なんだよ?」
「……なんでもない。行くぞ」
レッドは歓声を上げて再び外へ逆戻りした。残されたシルバーが、続こうとしたグリーンを引き止める。
「グリーン先輩、ゴールドがまだ寝ている」
「……ああ。そうだったな……」
どうしたものかとグリーンが思案するのと同時に、もしよければ俺がレッドさんに付き合います、とシルバーが言ったが、グリーンは一瞬、その言葉の真意が分からずに沈黙し、それから昨日、レッドとグリーンがバトルに出たばかりなので気遣っているのかとも思った、が。
「グリーン先輩は、その間にレポートを」
それでようやく納得がいった。今回提出するレポートを纏め上げるために助力を求めていた関係で、シルバーはあの調査に関してよく知っている。研究内容だけでなく、あのレポートがコミュニティにもたらずであろう効果を、また、あのレポートにかけるグリーンの情熱も。だがシロガネ山の自然の中にいるグリーンは、レポートのことなど今はすっかり頭からなくなって、あれほど力を注いだ研究活動も今やこれっぽっちの意味もなくなってしまって、むしろ全く余計な汚点のように思われていたから、その申し出は不要だった。それよりも、レッドが修行を積んでいる間に、自分が同じ修行をしていないということのほうがずっと重要だった。
「……気にするな。それより、朝食の後にはゴールドも含めて身体を解すだろうから、お前が身体を休めておけ——あまりよく眠れていないんだろう」
その言い訳はグリーン自身にも最もらしく聞こえ、彼は満足した。
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