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pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
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2015年02月08日 (Sun)
リクエスト「レッド/グリーン/ゴールド/シルバーの先輩後輩小説」


 風の音が止んだ。ふっと瞬間的に浮上した意識のままにグリーンが目を開けると、眠る前に見たのと同じ天井が目に入った。起き上がってみると、キャンプをしていた洞穴は昨日の騒がしさが嘘のように静まり返っていたが、荷物はそのままだし、昨晩の焚き火の名残がそのままに残っている。留守番と思しきシルバーのニューラが片隅で丸くなっている。彼はグリーンが目覚めたのを知るや立ち上がって、入り口まで歩き、振り返って止まった。そのまま動く気配がないのを見てとると、グリーンは嘆息しながらダウンジャケットを着込むと、荷物の中からビスケットのパッケージをいくつかつかみ取ってポケットに突っ込み、ボールの数を確認。震え上がるような寒さだ。熱いコーヒーが飲みたい。後ろ髪ひかれる思いで、洞窟の入り口へ向かった。雪に閉ざされていた入り口は、人間一人が通れるくらいの穴が穿たれていた。
 外に出ると、一面が輝くような白で覆われていた。表面のなめらかな雪の絨毯に覆われている。雲は掻き消えて、空は目に痛いほどに青く、辺りのようすもすっかり様変わりしていた。昨夜の雪嵐が、荒らされて掘り返された大地をすっかり塗り替えていったものらしい。新品の雪の絨毯にはきずひとつなかった。
 暫し景色に圧倒されていたグリーンが我に返り、ニューラを探すと、役目は果たしたとばかりに彼は西の方角へ消えていった。人の足跡が二つ、西の方角に転々と続いている。グリーンはその足跡を辿って、黙々と歩を進めた。
 広がる景色。この場所にグリーンの一昨日があって、昨日があったのに、まるで全て幻だったかのように何もかもが素っ気なく平然としている。けれど、誰かの一昨日や昨日なんて、じっさい幻なのかもしれない。過ぎ去ってしまった日々に思いを馳せるなんてことは、まだ少年だったころには当然のようにしなかったことだ。まだ足を踏み入れていない土地だけが視界からあふれるほどに膨らんで、その場所に足跡をつけることだけ、それだけのことが生活の全てだった、否、今だって場合によれば、あの頃のように、それだけのことに熱中する自信は——
「落ちますよ」
 夢の外から来たような響きで、声が降ってきた。それはやさしくさめていて、耳元に直に囁きかけられるような感じがした。風の粒子と混ざり合った息遣いも、詰めた息の躊躇い、戸惑っているかのように最初と最後の消えかけた発音。足を止め、振り返れば、棒立ちのシルバーが不思議そうに彼をうかがっていた。
 そこでようやくグリーンは、自分が西のクレバスの手前まで来ていたことに気がついた。ニューラは、主人の足元に控えている。
「朝、ゴールドが抜け出した。レッド先輩は、それを追った」
 グリーンの視線の意味を察してか、シルバーはおのずと口を開いた。そうかと頷こうとしたのと同じタイミングで、シルバーの肩の向こうからヤミカラスが顔を出したのを見て、グリーンはひとり納得した。
「……飛んできたのか」
「……?」
「足跡が二つしか無かったからな」
 足跡はクレバスに沿って続いていたが、しばらくしたところで迷走し、そして途切れている。降りられる場所が見つからずにうろうろしていたゴールドをレッドが捕まえて、フッシーか誰かの力を借りて上手いことクレバスの中に降りていったというところだろう。こういった狭い場所こそシルバーのヤミカラスの出番なのだろうが、一方的とはいえ派手に言い争った手前、なかなかシルバーの力を借りる気にはなれないのも致し方ない。そこまで考え、ふとグリーンは疑問に思った。
「お前はここで何をしていたんだ」
 シルバーが、ゴールドの心情を察して残っていたのだとしても、わざわざこの場所で突っ立って待っているというのも妙な話。
「何も」
「ならば何故、ここにいる」
 返事は無かった。
 グリーンは何も言わず、崖のへりを蹴り、対岸へ飛び降りた。昨日、ヤミカラスとニューラを放ったシルバーが、彼らを待っていた場所。『一気に引きあげろ』シルバーはそう叫んだ、と。単に引きあげろ、ではない。引きあげの準備がすっかり整ったかのような紛らわしい表現であると同時に、危機感を煽るにはうってつけの文句だ。ゴールドに引き上げさせるにはあまりにも適確すぎる言い方だったことも、ゴールドの怒りを煽ったのだろう。空から見ていたグリーンは、ゴールドやポケモン達が引き上げたのとほぼ同時にゴルバットの群れが谷底から押し寄せてきたのを確認している。実際、危機的な状況だったわけだ。そしてシルバーはポケモン達を放ち、そして、『間に合わなかった』と言った。彼はゴールドに言い返しもしなかった。
「……シルバー。お前、間に合わないことを分かっていたのか?」
 はい、と。グリーンの言葉に、崖の上から返事が聞こえた。気のなさそうな声だった。だったら何故。グリーンが言葉を続けるべきかと考えあぐねている間に、対岸のへりまでシルバーが歩いてきて、姿が見えた。しゃがみ込んで、クレバスを見下ろす。
「あんなものを背負っては駄目だ——あいつは、」
 どこかしら虚ろな視線を下に投げかけながら、シルバーは独り言のようにつぶやいた。あんなものは、俺の所為になるほうがましだと。
 ゴールドはお前の思惑を知って? と尋ねれば、シルバーは黙って頷いた。グリーンは小さく嘆息した。シルバーが間に合わないことを知っていて引き上げさせたのだと、ゴールドも勘づいたのだとしたら、烈火のごとく怒るのも無理はない。
「あいつは、ああいう奴だから」
 あんなものを背負ったら駄目だ。繰り返されたその声に、仕草に、一瞬覚えた戦慄はすぐさま遠退いた。かわりに、グリーンの脳裏には平穏なトキワジムでの日々が思い出された。最初、リーダーは認めることが仕事なのだと諭された瞬間から、彼の目は大志を抱く無数のトレーナー達が、彼らと共に歩む無数のポケモン達を映し出すようになった。世界は人とポケモンで溢れた。この道を行くのが自分と、常に姿が見えずともその存在に確かな手応えを感じていた、もう一人の少年だけではないと知った。あらゆる人とあらゆるポケモンがそれぞれに違う想いで、誰も足跡をつけたことのないまっさらな大地を目指していることを知った。いままで無我夢中で歩き続けていた足跡を、はじめて振り返ってみた瞬間から、彼は道を知り、その後に続く多くの少年の姿を見た。それは誰もが各々に、もうひとりのグリーンで、もうひとりのレッドだった。
 あの日レッドが辞退しなければ、或はグリーンが替わらなければ、この景色はレッドが真っ先に目にしたはずだった。リーダーは認めることが仕事なのだと諭されるのもレッドのはずだった。休日のトキワジムで書類整理をするのも、あのレポートを書いているのもレッドで、グリーンのほうが来客となっていたかもしれない。『修行かあ、行きたいけどレポートの締め切りが……うーん……』と言って、本気で悩んでからレポートを放り出してしまうレッドをやすやすと想像したが、もし彼がジムリーダーになっていたのならグリーン同様、レポートを仕上げたいといって最後の最後まで渋っていたかもしれない。
 あんなもの。あんなものとは、何だ。トキワのジムリーダーか。認めることが仕事だということか。休日のトキワジムか。調査に熱中していたレポートか。少女との、約束か。
「——犠牲か」
 グリーンは唇が震えるのを堪えて唸った。声は噛み付くような辛辣な響きを孕んだ。まさか、とシルバーは短くささやいた。そして不意に地面を蹴り、グリーンの立つ岸のほうへ飛びおりた。その拍子、フードのなかのヤミカラスが畳んでいた羽を広げ、ふわりと浮かび上がった。彼は着地して、上着についた雪を払い落としながら立ち上がり、高くそびえる対岸を見上げた。
「あいつがあの場所にいれば、俺はここにいると分かる。あいつの家があたたかかったから、俺が自分のお父さんのことを考えることができたように」
 ゴールドはただいつまでも喚き続けてくれればいい。自分の望みは必ず勝ち取ることができると、愚直なほどに信じ続けてくれればいい。必要なものは求めるまでもなく傍にあった、全てが揃ったあの家の中で暮らしていた頃のままで。
 ゴールドはこう言ったんです。シルバーは見上げたまま、呟いて、それから眩しそうに目を細めた。
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