pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
リクエスト「レッド/グリーン/ゴールド/シルバーの先輩後輩小説」
肌に涼しいくらいの麓の樹海を抜け、四人連れ立って足を踏み入れたシロガネ山の洞窟は、雪解け水にしっとりと濡れ、ひんやりと湿っぽい。太陽の光が届かなくなった瞬間に肌寒さを感じ、すぐさま薄手のパーカーを羽織れば十分だったが、レッドの後に続いて上へ上へと登るにつれて、次第に寒さが増してきた。山の中腹でいったん外に出て、また洞窟に入るからというレッドの言葉が現実となる頃には、更に着込んだウィンドブレーカーの前をしっかりと閉めなければ震え上がりそうなくらいになっていた。視界も悪ければ見通しもよくない、迷路のような洞窟を行ったり来たりして、何度目かの曲がり角でUターンし、やはり何度目かの坂道の登りに差し掛かったところで、前方に真っ白な光の穴が見えた。
しんがりをつとめるグリーンは最初、洞窟の暗さに目が慣れてしまったので、外光が眩し過ぎるのだと思った。が、先頭のレッドに続くゴールドが妙に騒ぎ立てているのが気になった。先頭二人よりも数メートル離れて歩いていたシルバーも怪訝に思っているようだったが、その足取りが乱れることはなかった。
「遅かったな、シルバー!」
ゴールドの笑い声に迎えられつつ外に出て、グリーンは納得した。眩しいと思ったのは、暗闇に目が慣らされてしまったせいだけではなく、辺り一面が白銀の雪景色だったからだ。
「今年はあんまり雪、解けなかったのかな」
レッドが白い息を履きながら、雲一つなく晴れた山頂のほうを見やる。冷夏だからな、というグリーンの呟きに、レッドはたったいま耳にしたような顔をした。
「や〜、雪なんて滅多に降らないっスからねー、屋敷のみんなを連れてきたら大はしゃぎするだろうなァ」
「……レッドさん。道、大丈夫ですか?」
楽しそうに辺りを眺めまわすゴールドをよそに、シルバーが淡々と尋ねる。それに応えてレッドが頷いたのを合図に行軍は再会となった。銀世界に目を奪われていたゴールドの傍を通り様にシルバーが声をかける。するとゴールドは少しばかり面白くなさそうな顔をして、「ちったあ情緒ってもんをだなあ」云々言いながら駆け足にその後を追い、シルバーに絡んだ。
肩に引っ掛けられた片腕を振り払うことなくシルバーは大人しく歩を進めている。たびたび見られるゴールドの反応も、軽く肩を震わせたり首を振ったりするだけで、険悪な点は見られず、会話の調子はむしろ穏やかだった。後ろからそれをまじまじ眺める機会に恵まれたグリーンは意外に思う。この二人といえば、全く喧嘩ばかりしているものと思っていたのだが。
前後左右に油断なく気を配りながらも、グリーンはシロガネ山——自然の要塞と呼ばれる、屈強な野生のポケモン達の生息する地域の一つ——の空気に、感化されつつあることを自覚している。見渡す限り、一点のしみもない雪の絨毯に覆われ、凍りついた岩場と、思い出したように群生する裸の樹々が、まるで死んでいるかのように佇んでいる。太陽の光に濾過された空気は冷たく澄み切ってはいたが、幸いにしてちょうどよく湿気を含んでいる。だが、依然として厳しい寒さに晒された身体が、しんから引き締まって行くのをグリーンは感じていた。体力と気力。公務に塗れた日々の上で、忘れかけていた力が戻ってくる。寒さに萎縮した肌の奥では、心臓が負けじと大きく拍動し、大量の血液を一気に送り出しはじめる。幼い頃からの修練で磨き抜いた精神力が、本来の輝きを取り戻したかのように彼の中で燃え始めた。(彼の名誉のために付け足しておくならば、)決して修練を怠っていたわけではないが、公務の都合上、山や森という自然の中に身を置き、自らの生命力を虐め抜くということが少なくなっていたのも事実だった。それを自覚したとき、グリーンは酷く苦々しい思いがした。彼の礎となっていたのは、いつもこの力だったのだ。
そのときグリーンは場違いにも、バックパックに詰めたレポートのことを思い出した。ジムリーダー業とは別に、彼の所属しているポケモンの研究コミュニティの集まりで発表するつもりの調査結果の報告書だ。急にそれがばかばかしいものに思えて、彼は舌打ちした。夢中になって書き募った調査用ノートと、書きかけのレポートを保存しているノートパソコンに、この静謐な気分をぶちこわしにされた気がした。持ってこなければよかった、と彼は思った。
それからまた洞窟を出たり入ったり、休憩を挟みながら歩くこと数時間、一行はレッドが見つけたという、キャンプをするのに丁度良い洞穴に辿り着いた。切り立った急勾配の崖に近付いて地面との接地面を隠すように覆い尽くした分厚い雪の層を、レッドの指示に従い、シルバーが手持ちのニューラに掘り返させると、ちょうど大人一人がやっと入り込めるような、小さな隙間があらわれた。真っ黒に塗りつぶされた穴の奥は見えず、レッドのピカが先んじて安全確認を引き受けた。彼のフラッシュに照らされた穴の中に入り込むと、そこは十畳ばかりの空洞になっていた。天井が低く、膝を曲げるか膝立ちでしか移動することができないが、ある程度地面はなめらかに整えられており、広さも全くおあつらえ向きで、四人が暖をとるにはちょうどいいだろう。
いつまでもピカのフラッシュに頼るというわけにもいかず、また、洞穴は狭いために大型のポケモンを出すわけにもいかない。一番奥まったところには、レッドが去年、今年使うつもりで蓄えておいたという薪の束が残っていたので、一抱え持ち出して、火をつけた固形燃料を囲むように重ねる。火はゆっくりと燃え出して、その周囲をうすぼんやりと照らし出した。
「はー、もうくたくたっス」
不意にゴールドが、大きく溜息をついて座り込んだ。くだけた口調ではあるが表情は本物だった。緊張が緩んだのだろう。元より、ゴールドは特別鍛えているというわけでもない。ここまで他の皆のペースについてこれたというだけで、上出来と言える。
「火を起こせば直ぐにあったまるよ」
闇の中に浮かび上がったレッドがそう言った。
「……。リングマの巣穴かもしれないな」
グリーンは推測を口にして、ちらりとシルバーを見たが、彼は困ったように首を横に振った。電波の届かない場所でたびたび過ごすとはいっても、流石に雪山で暮らすようなことはないのだろう——確かに、わざわざそんな気を起こす物好きは、おそらくレッドくらいのものだな、とグリーンは思い直した。
チリビーンズやオイルサーディン、スパム。空ければ直ぐに食べられる缶詰群がずらりと並ぶ横で、ゴールドとシルバーは水煮やホールトマト等、調理用と思しき缶詰も持って来ていた。小さなスパイスのパックを取り出しながら、市販のやつはずっと食べ続けてると飽きるんスよと、ゴールドの意外な一面を見た。グリーンと目の合った親友はちょっと肩をすくめた。レッドはゴールドほど食べ物に頓着しない性質らしかった。ゴールドは飯盒と米まで持ち込んで来たから、期待していたよりも遥かに上等な食生活が送れそうだ。ちなみに、シルバーは野宿経験は多くとも、缶詰のような長期保存用食料を使う機会はなく、食料に関してはゴールドに任せたらしい。彼は積み上げられた缶詰の山には目もくれず、入り口の方向に顔を向けている。
ほっとしたら、引っ込んでいた食欲が戻ってきて、まずは遅い昼食をとった。缶詰を火にあてて、温めてから黙々と食事をしたが、思ったより量はとれなかった。それでも腹を満たすと疲れがどっと押し寄せてくる。
「俺、今日はもう無理っス」
真っ先に自己申告したのはゴールドだった。続くように、俺も今日はやめておきます、とシルバーが真摯に告げた。
「グリーンは?」
レッドの大真面目な表情を受けて、化け物かお前はと突っ込みたくなったが、グリーンはその言葉を呑み込んだ。親友は無表情だったが、目の色が違った。発情期のポケモンさながら、高揚して落ち着かない気分でいることを、その目はありありと語っていた。
グリーン自身もまた、自分が高揚していることを自覚していたが、過ぎるがゆえに、今日は自粛するつもりでいた。だが、レッドのその表情を見たら、黙ってはいられなかった。またしても、気分が伝染した。
「三十分後だ」
「よっしゃ」
うわーバケモノかよ先輩たち、とゴールドが軽口を叩き、シルバーは何も言わずにそのやりとりを眺めていた。
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