pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
リクエスト「レッド/グリーン/ゴールド/シルバーの先輩後輩小説」
キャンプ地では、ゴマゾウやポケモン達が、遅い朝食にありついている。それは、人間であるグリーンとシルバーも例外ではなかった。シルバーは案外ポケモンに懐かれやすい性質らしく、その膝の上や周りにはゴマゾウの子供が甘えたそうに群がっている。
朝、後ろ髪ひかれる思いで諦めた熱々のコーヒー。どうも、とカップを素っ気なく受け取って一口。後輩は無表情のまま、何も言わず、カップを口元からすっと離した。
「……先輩って、案外」
シルバーはちいさく呟いて、後は何も言わずに飲み干した。
言いかけたことは、最後まで言え。グリーンがそう促してようやく、シルバーは、ゆっくりと視線を上げた。
「こういうこと、下手ですね」
呟きながら、シルバーは無造作に、グリーンのカップに手を伸ばした。ペーパーフィルターを取り替え、グリーンの分として新たに湯の沸いたポットを手に取ると、一度カップに湯を注いでからポットに戻し、ようやく湯を落としはじめた。最初の蒸らしを経て、湯は管を通って細くフィルターの中に円を描く。粉は湯をたっぷりと含み、膨らんでは、萎んでいく。その器用さが、グリーンには意外だった。
「上手いものだな」
「ねえさんが好きだったんで」
どうぞ、と素っ気なく渡されたカップは熱い。口をつければコーヒーの香りがした。グリーンはあまり味に拘りがあるほうではないが、おそらく美味しいのだろう、と思う。ありがとう、と返すと、いえ、とこれまた気のなさそうな返事が返ってきた。
「あのゴマゾウは、本当に駄目だったんだろう」
何気なくグリーンが口にした一言に、シルバーはちらりと視線を上げて、はい、と頷いた。
「ニューラとヤミカラスは、複数のゴルバットが同時に獲物に牙を突き立てたのを目にして深追いを止めたんだ」
ゴルバットは一匹で、一度に三百シーシーもの血液を吸い取り、また、滅多なことでは一度突き立てた牙を離さないという。グリーンも、野生のゴルバットには本当にひやひやさせられるというレッドの話を聞いていた。
「だが、獲物がいなければ狩るものが飢えて死ぬ」
助けられなかったことを悔いる必要はない。暗にそう示したグリーンの一言に、シルバーは空になったカップの底を見詰めながら、俺もそう思う、と応えた。
「論理としてはその時点で破綻している。だが、あいつの場合、理屈じゃない。あいつは、全てのポケモンが大事だとか、全ての人が大事だとか、考えてない。あいつはあいつの大事にしたいものを、失いたくないだけだ」
「……よく見てるな」
「見たくて見てるわけじゃない。ただ、どんなに手を伸ばしても、届かなかったから。だが、見極めれば見極めるほどに遠くなる、そういうこと……あるだろう」
グリーンはふと、シルバーの表情に、切望するような影が過ったのを見つけた。それは、多分、おそらく彼自身も、もうひとりの少年——レッドに対して抱いたことのある感情のひとつに違いない。
「助けたかったのは、お前も一緒か」
その言葉に、シルバーは目を丸くして、グリーンを見返した。
「……助けたかった——おれが?」
「違うのか」
「…………そう、……かもしれない」
「たぶんな」
尋ね返したグリーンに、シルバーは暫く無言で考えて、やがて力なく項垂れた。膝の上から鼻を伸ばしてきたゴマゾウを、手袋越しに撫でてやりつつも。ゴールドは、どんな顔をして戻ってくるのだろうか。落ち込んでいるのか、それとも強がっているかもしれない。レッドはどうだろう。こっちからは見えないクレバスの底から。何にしろ、全身冷え切って戻って来るには違いないだろう。だから、熱いコーヒーの準備だけは、しておこうと思う。
いっそう大きな風が吹いた後に、外から、荒い息遣いが聞こえた気がした。はじめ、グリーンは風の音かと思ったが、次の瞬間にシルバーが顔を上げた。帰ってきたのか、けれど、なぜこんなに息が上がっているんだろう。グリーンとシルバーは、思わず視線を見合わせる。息遣いだけではなく、やたらめったら騒がしい。何やらしきりに話し合う声まで聞こえてきた。
ふたりが呆気にとられている間に、勢い良く入り口から、レッドが滑り込んできた。
「グリーン! 毛布! 早く!」
ダウンの前をくつろげ、その中にぐったりしたゴマゾウを抱えている。鼻がない。驚愕を隠せないながらも、グリーンは咄嗟に我に返って腰を上げ、荷物の山から毛布を引っ手繰る。レッドは焚き火の前まで這いずってきて、俺もうすっかり冷えてるから、と言って、シルバーにゴマゾウを渡した。直後、グリーンが戻ってきて、シルバーに毛布を渡し、シルバーはしっかりとゴマゾウを包んだ。既に応急処置がなされているらしく、身体にはしっかりと布が巻きつけられていた。レッドに続いて降りてきたらしいゴールドは、いつの間にか火の近くで座っている。二人はようやくひと心地つけたとばかりに、大きな溜息をついた。
そこでようやく我に返ったらしいシルバーが、驚いた表情のままおそるおそるゴマゾウを触ってみて、つぶやいた。
「…………生きてる……」
心底絶句しているらしいシルバーの様子に、傷は噛み跡だけだから体力さえ回復すれば元気になると思う、と言って、ゴールドとレッドは顔を見合わせて含んだような笑い方をした。
「ゴルバットの巣から、少し離れたところで見つけたんだ」
「やけに勿体ぶるな。何か知ってるのか」
尋ねたグリーンに、レッドは嬉しさを隠しきれない様子で、推測に過ぎないんだけどさ、と断りをいれてから、改めて口を開いた。
「おそらく、『こらえる』だと思う。それで、なんとか瀕死の状態で持ちこたえたんだ」
「ゴルバットの巣から離れたところで見つかった理由は?」
「それなんだけどさ。ゴールド」
レッドが呼ぶと、示し合わせたようにゴールドがジャケットのポケットに手を突っ込んで、あるどうぐを取り出した。真っ先に息を呑んだのはシルバーだ。
「……『けむりだま』っス。ゴマゾウが咥えてたんスよ」
ゴールドは訳知り顔でシルバーを見ると、にやりと笑った。
「その反応、わっかりやすいのな。やっぱお前のか? シルバー」
シルバーはゴールドから放り投げられたけむりだまを片手に受け止めながら、頷いた。
「……俺がヤミカラスに持たせていたものだ。だが、何故……」
「シルバーはさ、ヤミカラスとニューラに追いかけさせたんだろ。多分、そのときに渡ったんじゃないか。ヤミカラスの判断か、ひょっとしたら、たまたまかもしれないけどさ」
呆然としつつ呟いたシルバーに、レッドが助け舟を出した。しかしシルバーがそれに応えるよりもはやく、ゴールドがその肩にのしかかるように絡んだ。
「まーそんなんどっちでもいいっスよ! さっすが俺のダチ公とその相棒どもだぜ!」
「俺は何もしていない。そもそも、単なる偶然かもしれないだろう」
「またおめえはそういうつまんねえことを…………ン?」
言い切ったシルバーの口調はまったくいつも通りで、思わず唇を尖らせたゴールドだったが、ふと何かに気付いた。シルバーは軽く目を伏せて、毛布に包まって息をついているゴマゾウをぼんやりと眺めている。口調も表情もいつも通り殆ど無表情でありながら、なぜだかゴールドには、彼がいまにも泣き出しそうでいることが分かった。
「……柄でもねえな、オイ」
ゴールドは声を潜めて笑い、ぽんと軽くその肩を叩くと、するりと離れた。シルバーはそれすら不思議そうに、珍しくあっさり離れていったゴールドを視線だけで追った。
彼の膝の中から、規則的で穏やかな呼吸が聞こえはじめた。他のゴマゾウ達が取り囲むように見守る中、鼻のないゴマゾウはひとり、平和な寝息を立てている。
「……眠ったのか」
「ん」
グリーンが声を潜めて呟く。
レッドはそれに応えて頷きながら、静かに囁いた。
「生き返るんだ」