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pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
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2014年05月25日 (Sun)
クリス←塾の子
あらぶったのでとりあえず書いてみました、続くかもしれない

なお、塾の子はオリジナルキャラクターなのでご注意ください。


 J・フラワーは年齢のわりに聡い子だった。
 跳ねっ毛の黒髪と、従順そうな愛らしい目をして、顎の華奢な、一見すると女の子に間違えられてしまいそうな、十歳の男の子。身体も鼠の子みたいに小さく、腕や足など折れてしまいそうに細くて、おとなしくて、優しい子だった。けれど彼は、自分の外見や性格のことで、なにか馬鹿にされたときにけして黙っていられなかった、年上の雄牛みたいな男の子にも果敢に立ち向かっていったし、それで痛い思いをしても泣かない子だった、勝てずとも自分は抵抗したのだという誇りだけが傷一つなく残されていたが、それ以外はほとんど完膚無きまでに叩き潰されて、屈辱に耐えながら唇を噛み締めているのが常だった。それがどれだけ無力なものであっても、彼は必ず抵抗した。聡明で、誇り高く、ものの道理を弁えているような……、彼は年齢に見合わない貴族的なところを備えている少年だった。
 クリスタルが彼とはじめて出会ったのは、ポケモン塾の応接室だった。客らしき人が塾へ入って行くのを遠目に見たクリスは、年長の子供たちに年下の子供たちの面倒を頼んで、お茶を準備した。事務机にパイプ椅子が四脚並んだだけの、応接室とは名ばかりの部屋で、大柄な初老の男と、ほんの八歳くらいの子供が並んで、ジョバンニ先生と向かい合っていた。男のほうは非常に背が高く、豊かに蓄えた白髭を襟元に埋め、がっちりした体つきをフロック・コートに包んでいた。彼は外国人らしい顔立ちで、落ち窪んだ目と大きな鷲鼻を持っていたが、物腰はやわらかで穏やかに落ち着いていて、クリスがお茶を出したときに、ありがとう、と鷹揚に会釈をした。いっぽうで子供のほうは顔立ちの愛らしい、こじんまりとした体格で、いくらか緊張した面持ちではあったが、背筋をピンと伸ばして、まっすぐに前を向いていた。
「この子をしばらく預かっていただきたい」
 フロック・コートの男は第一声、そう言った。
 クリスはそこで退室してしまったので、仔細は聞くことができなかったが、後からジョバンニ先生に聞いたところによると、連れてこられた男の子――Jという名前だったが――の母親がいま病床にあり、ほかに身寄りもなく、貧乏なために、気の毒に思った初老の男は、旧知の仲であったジョバンニ先生に、格安で子供を引き受けてもらえないかという相談を持ちかけたのだった。ジョバンニ先生は快くその頼み事を引き受けたが、そういう商売はしていないからと、代金を受け取るのは断っただろうな、とクリスは聞かずとも思った。まとまった予算というものはなくとも、子供たちを食べさせていくだけの資金はとりあえず事足りて、そこに小さな子供一人がすこしの間同伴したところでたかが知れているし、なにより先生の表情が常に増して明るかったからだ。
 クリスの最初の印象として、Jはよく怪我をこしらえる子供だった。外で遊んでいる子供達を呼び戻すとき、Jは決まって一番最後に怪我を隠すようにしておずおずと戻って来るのだったが、クリスに怪我を見とがめられると、人懐っこそうにはにかんでもの柔らかに、転んじゃって、と言うのだった。最初はそれほど気にもとめなかったクリスも、何度もそういったことが続くと流石に気掛かりになり、Jを注意して見ることにした。とはいえ、たくさんの子供達、庭の端で転んで泣き出したかと思えば、中央あたりでボールを取られただのトイレに間に合わなかっただの騒ぎは絶えず、クリスタルが他の面倒に追われている間に、Jはいつのまにか姿をくらましていた。
 慌てたクリスタルがJを探して施設の裏側にまわろうとしたとき、取っ組み合いの気配がした。見れば、Jが自分よりもずっと大きな年上の少年たちに組み付いているところだった。
「ちょっとあなたたち! なにしてるの!!」
 クリスの一喝で年上の少年たちは慌てて散っていったが、Jはぽかんとした表情のまま立ち尽くしていた。クリスは素早く彼に駆け寄ると、屋内に運んで手当をするために抱き上げようとしたが、Jは我に返ったようにクリスを見返すと、かぼそいけれどもしっかりした声で、やめてください、と言った。
「お気遣いには、感謝します。けれど僕は、最後まで戦わなければならなかったのです」
「……でも、さっきの子たちはずっと年上の子よ。あなたみたいに小さな子に怪我をさせるなんて!」
 クリスは憤慨したが、Jはものわかりのよさそうな目をして首を横に振った。
「……先に手を出したのは僕です。僕にはお母様がいて、帰る家もちゃんとあるものだから、あいつらは僕をからかったり、僕やお母様の悪口を言ったりするんです、だから僕は、あいつらがからかったり悪口を言ったりするときは、いつだってあいつらをひっぱたいてやるんです!」
 はじめこそ落ち着いた口調だったものの、後半にいくにつれて、いつもものしずかな、はにかみ屋だったJが急に頭に血がのぼったように早口になるのに驚きながらも、クリスは眉を顰めて嗜めた。
「あの子たちも悪いけど、J、あなたも暴力はダメよ」
「なぜですか?」
 Jはするどい視線をクリスに投げかけた。
「僕とお母様は何も悪いことなんかしやしません。それなのにどうして悪いように言われなければならないんですか? そこでもしやり返さなかったら、それこそお母様に申し訳がたちません! あいつらが悪口を言っているのに出くわしたら、僕はなんと言われても、あいつらの尻をひっぱたいて、腕にかみついてやりますよ!」
 この一連のやりとりからクリスが学んだことは、おとなしく品行方正な少年Jは、思いのほか聡明で、突き抜けて誇り高く、そして何より利かん坊だということだった。もしクリスタルが相手の少年たちに言い聞かせようとすると、Jは視線で彼女を殺さんばかりに睨みつけるものだから、彼は相変わらず傷が絶えなかった。クリスタルは辛抱強く仲裁を申し出るとともに、人に怪我をさせることがどうしていけないのか、について言い聞かせてみたり、時に厳しく叱りつけて突き放してみたりもしたが、Jは一向に聞く耳を持たなかった。Jは自分が負けた姿を隠したがったので、クリスタルは負傷したJを見つけると、そこで待っているように言いつけて、屋内へ救急箱を取りに行くのだった。
 その日も施設裏で一人、怪我の具合を確かめているJを見つけて、クリスが溜息をつきながら救急箱を取って戻ってくると、Jは身体を丸めて震えていた。クリスは微かに息を呑んで、できるだけさりげなさを装って彼に近付くと、Jは慌てて袖で顔をごしごし拭ってから、クリスを見上げた。いまの今まで泣いていたのであれば、とうぜん、頬はリンゴのように赤くなって、目蓋は腫れぼったく、涙の跡がいくつも残っていた。賢いJは自分の失態にすぐさま自分で気がついて、慌てて弁解しようとした。
「ち、ちがいます。これは目にゴミが入って……!」
「泣いていいのよ? こどもってそういうものだもの」
 すっかり慌てたJとは対照的に、クリスは救急箱から消毒の準備をしながら、むしろ安心したように、落ち着き払って答えた。するとJは急に黙り込んで、神妙に、クリスが手当をするのを見守っていた。ちょっと沁みるわね、という言葉とともにびくりと身体を硬直させたあとに、ガーゼで傷口が覆われるのを見ながら、Jは不意に口を開いた。
「……悔しいんです。僕はあいつらを黙らせることができない。あなたに助けてもらってあいつらを黙らせたって仕方が無いんです。あなたは”おねえさん”だから、きっとあいつらはあなたの言うことを聞くだろうけど、僕に至っては”おねえさん”に泣きついたって言われるのが関の山です。そんなことはぜったいに我慢できないんです。嘘の悪口だったら、いくらでも殴り掛かれるけれど、僕があなたに泣きついたってことは……あながち嘘でもなくなってしまうだろうから……」
 それからJはしくしく泣き出して、クリスは手当を終えると、何も言わずに彼を抱き締めた。
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