pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
独白
[プロローグ]
僕らには人間のような道徳が無い。弱いものいじめはダメとか、ひとりじめはダメとか……、もっとも、人間と接して行くうちにそういうことを覚えていく個体もいるけど、生まれたときから研究所暮らしの僕らは、ご飯の時間も、ボールから出してもらえる時間も、接触する人間も限られていたから、そういうことを意識する必要もなかった。何もしなくても生きていけたから、喧嘩もする必要もなくて、僕ら三体は、いっしょに遊んだり、いっしょにお昼寝したりしながら、ほどよく緩く、そこそこに良好な関係を築いていたってこと。
[1]
退屈だったけど、そんなに悪くなくて、この日々がずっと続いていても別にまあいいかな、なんて思っていた、矢先。矢先って言っても、毎日そう思っていたから、それがいつだって矢先なんだけど。いつものように三体それぞれボールに入れられていたときに、僕だけが持ち去られた。隣にいた二体のびっくりした顔が一瞬で遠ざかって消えた、僕ももちろんびっくりして、咄嗟にどうしたらいいか分からなかった。ボールが揺れる。どこかへ運ばれて行く。おさななじみの二体とももう会えないかもしれない。それなのに、僕はどこかわくわくしてた。生まれ育った場所から遠ざかるにつれて、心臓がどきどき言うのが、怖さのせいだけじゃないのを、知ってた。
[2]
はじめて、ボールから出されたとき、僕はちゃんと指示に従った。僕らにとっては、トレーナーたる人間こそが正義だし……、先にいったように、道徳観念も無かったから。でもそれ以上に、ボールから出された瞬間、僕はそのトレーナーに好意を感じたんだ。研究所の人たちとも、街の人たちとも違う。彼は僕の知らない目をしていた。僕の知らない匂いをしていた。僕の知らない何かを持っていた。彼は僕らに話しかけないし、遊んでもくれないし、だからといっていじめるわけでもない。僕の先輩たちも、僕とおさななじみみたいに遊んだりしないし、みんなむっつりと黙り込んでいる感じだ。でも、みんなそのトレーナーをすごく信頼しているのが分かった。彼は確かに強い、でも、それだけじゃないような気がしたんだ。僕はきっと、この人にずっとついていくだろう。漠然と、そんなふうに思った。
[3]
再会したヒノアラシは、僕と同じようにトレーナーと旅に出たらしい。彼は何も変わってはいなかった。仲良しだったあのころのまま。正直、ヒノアラシのトレーナーは話にならない。いままで接して来た研究所や、街の人たちと変わらない感じがした。あんまり軽率だし、先のこともろくに考えていない。ゴールド。ヒノアラシは彼のことをそう呼んでいたから、きっとそれが彼の名前だったんだろう。ゴールドは、僕のトレーナーを、シルバーと呼んでいた。そこでようやく、僕は自分のトレーナーの名前を知らなかったことに気がついた。
[4]
名前なんて、大した問題じゃない。僕が指示に従うのは僕のトレーナーただひとりなのだから、その名前を覚える必要もないし、呼ぶ必要もない。そうは分かっているのに、ヒノアラシとそのトレーナーの姿が、たまに脳裏にちらついた。僕らとは違う信頼の形、なんだか、それだけじゃないような。分かるのは彼らは僕らとは違う、ラフな関係で、仲良しだってこと。僕はシルバーのことをぜんぜん知らない。……いや、きっと知る必要もないんだ、僕らの場合は。シルバーの生まれたところや、年齢や、その他いろいろなことを知らなくたって、シルバーが僕を惹きつける事実は、変わらないんだから。
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別に、ずっと知らなくても構わなかった。仲良しにならなくたって、遊んでもらえなくたって良かった。彼の傍にいられて、彼の力になれさえすれば、それだけで良かった。閃く光のような、危ういほど鋭利な彼の意志に寄り添って、僕もその一部になりたかった。すべてをかなぐり捨てて、針を振り切った先の光になりたかった。
[エピローグ]
あれから、僕とシルバーの関係に何か変化があった、とかいうことは、ない。僕は進化したし、シルバーもお父さんが見つかったり、生まれ故郷が判明したりしたけれど、あいかわらず遊んではくれないし、いじめるわけでもない。だけど、僕らは、すこし仲良くなったと思う。僕らの先輩たちは、シルバーの傍に行くようになったし、求めれば、シルバーも返してくれるようになったから。でも、僕はあいかわらず、今までの距離を守ってる。僕は彼を愛していたけど、それ以上に尊敬していたんだ。いつまでも、彼の選択が僕の選択であるように。どこまでも、彼とともに行けるように。道が途絶え、時間が尽きるその最期まで、ひとつの光でいられるように。