pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
カントー+ジョウト
シルバーの身に何かが起こった。その謎を解き明かせ。そんな似非ミステリ。
※若干際どい内容を含みますので、ご注意ください。
シルバーの身に何かが起こった。その謎を解き明かせ。そんな似非ミステリ。
※若干際どい内容を含みますので、ご注意ください。
平和な日常である。
ブルーがシルバーに電話をかけたのは、特に用事があったわけではなかった。ただ、しばらくゴールドの屋敷に住まわせてもらうと言っていた彼の様子が少し気になったから、連絡をしてみようという気になっただけに過ぎない。ゴールドとあの子のことだから、心配はいらないと思うけれど、とブルーは楽観的に構えながら通話ボタンを押す。繋がるまでに、すこしばかり時間がかかった。
「もしもし、あたしよ。特に用ってわけじゃないんだけど、どう、変わりない?」
『…………』
「……シルバー?」
しかし返ってきたのは沈黙で、怪訝に思ってブルーは弟の名前を呼ぶ。声が遠いのかしらと、ブルーが耳をスピーカーに近づけると、風のような音が聞こえる。たまに途切れたり、詰まったようになるその音が、風ではなく、荒い息遣いの音だと気付くのにそう時間はかからなかった。
――何かあったんだわ。
ブルーはすうっと頭の芯が冷たくなるのを自覚しながら、半ば叫ぶようにして呼びかけた。
「シルバー、どうしたの! 聞こえてたら返事して!」
「…………っ……ね……え、さ……っ」
は、と絶え間なく短く息を吸う音が聞こえ、そして蚊の鳴くような声がした。彼の声は、ブルーですらかつて聞いたことがないほどに震え、裏返っていた。冗談でしょ、とブルーは小さく囁く。
「ちょっと……! 何があったの? 怪我してるの!?」
答えようとしたらしいシルバーの息を吸う音が掠れ、咽せるような乾いた咳をするのが聞こえる。喋るのもままならないその様子に、埒があかない、とブルーは質問を変えた。
「今からそっち行くから……どこにいるの!?」
「……じゅ……八番……どう、ろ、の……っ」
「隠れ家ね、わかった、すぐ行くから!」
ブルーは通話ボタンを押すのももどかしく、慌ただしくポケギアを鞄にしまい込んで駆け出した。
十八番道路の隠れ家をブルーは知らない。幸いにもトキワシティにいた彼女はトキワジムに駆け込み、グリーンに助けを求めた。ブルーの真っ青な顔色に、ただならぬ事態と察したグリーンは何も言わずにブルーをリザードンの背に乗せてくれた。
そうして駆けつけた二人は、戸もろくに締まらないような小屋の扉を開けて中に駆け込んだ。シルバーは三角座りをして、自分自身を守るように首を限界まですくめて、部屋の隅で震えていた。その近くでは、移動に使ったのだろうドンカラスが心配そうに主人の傍に控えている。
「シルバー……! 怪我は、ないわね?」
シルバーは少しだけ顔を上げて、小さく頷いた。その間にも、彼の喉からは頻繁に息を吸う音が途切れ途切れに聞こえている――過呼吸症候群だ。
どうやら怪我はないようだが、初めて見る、シルバーの尋常ではない怯えように、ブルーは戦慄する。彼女は弟の頑になった身体を包むように腕をまわして、背中を繰り返し撫でる。
「落ち着いて、シルバー、大丈夫だから」
「……う、……ぅ、……っ」
しゃくりあげながら必死で声を殺す彼の目からは、絶え間なく涙がぼろぼろと溢れている。それまで絶句していたグリーンが、おい、とブルーに声をかける。
「プクリンに歌わせろ。少し眠らせたほうが良い」
「……そ、そうね……。ぷりり、お願い」
ブルーは今気付いたというふうにはっとして、ボールからプクリンを出して、グリーンと二人、揃って耳を塞ぐ。ドンカラスは察しよく、羽ばたいて外に出て行った。少々時間はかかったが、腕のなかの弟がなんとか眠りにつき、プクリンが口を閉じたのを確認してからようやく耳から手を退けた。
眠る彼の呼吸はまだ少し荒いが、起きているときよりも少しずつ落ち着いてきているのが分かる。くた、と気持ち寄りかかってくる弟の体重を支えながら、ブルーは悄然として呟く。
「……いったい、何があったっていうの……」
「お前にも心当たりがないのか?」
「……こんなにこの子が怯えているの、あたしだって初めて見たのよ」
さすがのグリーンも、あの意志の強いしたたかな後輩のあられもない様子に、少なからず衝撃を受けたらしく、その声音はどこか途方に暮れているようでもある。不意に思い出したように、あ、とブルーが声を上げた。
「そうだ、ゴールドの家に暫く居るって言ってたから、ゴールドに聞けば何か分かるかもしれない」
「そうか。まず、ジムに戻るぞ。リザードンに乗っている間、お前はゴールドと連絡を取ってみろ」
「……うん」
ブルーは、グリーンが弟を背負うのを手伝っていたが、支えていた弟の背から手を離すと、自分でも知らないうちに胸の前で両の指先を触れ合わせていた。そのまま外に出ると、避難していたドンカラスが羽ばたいて、心配そうに主人の後をついていく。ブルーはグリーンに続いてリザードンの背に乗って、ポケギアを取り出すと、既に着信があったことに気付く。
「……ゴールドからだわ」
時刻を見れば、シルバーに連絡をした直後、すれ違うように着信が入っている。ブルーは息を小さく呑み込んで、通話ボタンを押した。
*
その日ゴールドは、コガネのゲームセンターに行って、帰ってきたところだった。いつものようにシルバーも誘ったのだが、特撮の再放送があるとかで断られたため、一人である。なんだかんだ、シルバーもゲームセンターで遊ぶのを満更でもないように思っているらしく、最近は二人でスロットの前に並んで、くだらない話をつらつらとしながら、シルバーのスロットが大量のコインを吐くのに文句をつける(なぜかは分からないけど、シルバーは妙に運が強い、というか勝負強い。あいつと賭けゲームの類は絶対にしたくない、とゴールドは思っている)までが日常のルーチンだった。
庭で出迎えてくれる屋敷のポケモンたちに構い倒されつつ、まとわりついてくるのを宥め宥め、それでも甘えん坊のププリンといつも一緒にいるエイパムをくっつけて屋敷の中に入って、ゴールドは自分の部屋で戦利品の整理をするつもりだった。
「……うわ!?」
廊下の曲がり角に差し掛かったとき、ゴールドは飛び出してきた影にほとんど体当たりされるようにして尻餅をついた。一瞬見えた、赤い髪は見間違えようもないシルバーで、文句の一つも言おうとしたのだが、シルバーのほうは少しよろめいただけで見向きもせず、そのままゴールドの後方に走り去っていってしまった。その速力は、明らかに全力である。
「…………どうしたんだ、あいつ」
何かあったのだろうか。
そのときには、ゴールドの顔は驚愕というより怪訝な色が強くなる。シルバーの姿は既に見えなくなっていた。それでもゴールドは、
(……まあ、トイレかもしんねーしな)
と、気楽に構えていた。
何せ、事件も何も起こらない、退屈なほどに平和な日常が続いているのである。ゴールドの脳もいささか平和ボケしてもおかしくはなかった。けれどもゴールドが部屋に戻ると、その認識は吹き飛ばされることになる。
「……なっ、」
自分の部屋――おそらく留守中に、シルバーがテレビを見ていた部屋――が、荒らされている。テレビ画面には戦隊ものの特撮番組が流れっぱなし、フローリングには硝子のコップが転がって、そこに入っていたであろう麦茶と氷が残らずぶちまけられている。極めつけには棚の上に置いてあったビリヤードやらスケボーやらの古い雑誌が殆ど床の上に落ちて、見るからに凄惨なありさまだ。
はっと我に返ってゴールドは視線を上げる。窓は全開にしたままだ。
「……あいつ、」
ここのところ、名実ともにゴールドのダチ公として馴染んでいただけに、すっかり頭の中から消えていたが、シルバーはかなり訳アリな人物である。ロケット団ボスの息子である以上、いつどこで襲われようが攫われようが決して不思議ではない。
そもそも、シルバーが窓を全開にしてテレビに集中するなど、以前では考えられないことだった。ゴールドと同じように、彼の頭も良い感じに平和ボケしていて刺客の侵入を許した、というのはいかにもありそうな話で、ゴールドは舌打ちをした。
すぐさまゴールドはシルバーのポケギアに連絡を入れたが、案の定、出やしない。
「あんの野郎……ダチ公だって言ってんだろうが。なんでいっつも一人で解決しようとしやがるかねえ」
しかし、宛もなく探しまわるわけにもいかず、途方に暮れたゴールドはクリスに連絡をした。彼女の真面目すぎる気質はゴールドをいささか疲れさせることが無きしにもあらずだが、そのしっかりとした気性のためか、長い付き合いのためか、何かあったときに頼りにしやすいというのも事実である。
果たしてその判断は功を奏した。彼女は、ゴールドにとって天啓とも言える助言を与えたのである。
『ブルーさんには連絡した?』
それは、何故そこに思い至らなかったのだろう、とゴールド自身呆気に取られるほど、当然かつ効果的な方法に思えた。
「その手があったか、恩に着るぜクリス!」
『あ、ちょっ――』
しかし実際にブルーと連絡がとれたのは、それから三十分もしたころだった。すぐに連絡がとれないことに焦れて、ゴールドはその間に何か手がかりでも残っていないだろうかと、自分の部屋を調べてみたりもしたのだが、手がかりらしい手がかりもなく。ただひとつ言えることは、こぼれた麦茶の氷がまだその形を保っていたことから、何かしらのハプニングがあってから殆どすぐにシルバーは部屋を飛び出したのだろう、ということくらいだった。シルバーを助けようにも、居場所が分からなければどうにもならない。屋敷のポケモンにも声をかけてみたが、庭に出るなりすぐさまドンカラスで西のほうへ飛び去ったらしい、ということしか分からなかった。
そこで、ようやくブルーのほうから着信があった。彼女の第一声はこうである。
『ゴールド、さっき着信があったのは、もしかしてシルバーのこと?』
「……! 先輩、やっぱ何か知ってんスか!?」
『知って……って、』
ブルーは少し戸惑ったように言い淀んだ。
『……まず状況を説明するわね』
簡単ではあるが、ブルーがシルバーを見つけた一部始終を聞かされると、ゴールドはひとまず息をついた。
「じゃあ、あいつは無事なんスね……あれ、そしたらあいつ本人から事情を聞けばいいじゃないっスか」
『無事……といえば無事なんだけど……喋れるような状態じゃなかったのよ』
「へ? ……それって、どういう」
ブルーは言葉を濁して、小さく溜息をついた。
『怯えていて、まともに物を考えられる状態じゃなかったの。ずいぶん混乱もしていたみたいだったし、プクリンに歌わせて、とりあえず眠らせはしたんだけど』
「…………まじ、すか……?」
シルバーが喋れないほど怯える、だって? 想像して、ゴールドはぶるりと肩を震わせる。なんだその薄ら寒い冗談。気持ち悪いとか、背筋が冷たくなるとか、そういうレベルを超越している。
それはシルバーだって人間である。怯えることだってあるだろう。だが、彼は元来、恐怖心よりも怒りのほうを煽られやすい性質だ。その彼が、怒るよりも先に怯えるなんて、ゴールドには想像もつかなかった。
『それで、あの子いまゴールドの家にいるんでしょ? 何か知らないかと思ったんだけど』
その様子じゃ、あまり期待はできなさそうね。
暗に落胆したブルーの声が聞こえた気がした。実際その通りなので、ゴールドは肩をすくめる。俺も何が何だかわかんないんすけど、と前置きをして、ゴールドは今の状況を説明した。
*
その後間もなくして、トキワジムにカントー・ジョウトの図鑑所有者が集結する事態となった。ロケット団に関する何かがシルバーの身に降り掛かったのだとあたりをつけて、ブルーは情報集めのためにレッド、イエロー、クリスに電話をした。その際にシルバーのことについて話すと、今日が休日ということもあって、三人はもし力になれればとトキワジムまで集まってくれたのだ。
「じゃあ、シルバーがいた部屋は荒らされていたんだな」
「襲撃を受けたあと、ゴールドの家に迷惑がかからないように逃亡したっていうのが一番ありそうですね」
「イエローは? 何か分かったか?」
レッドが振り返る。イエローはシルバーと一緒にいたドンカラスの気持ちを読み取っていたのだが、困ったように首を横に振った。
「いえ……この子も何も知らないみたいです」
「……妙だわ」
ブルーは神妙につぶやく。シルバーの手持ちは一匹として、シルバーの身に何が起こったのかを知らなかった。ゴールドの家で、それともゴールドの家を出た後で災厄が降り掛かったのか、どちらにしても襲撃を受けたのなら、ポケモンを出して応戦するのが自然の流れだ。外傷もない。かつて自分の父親が悪の総統だと知ったときでさえ、彼はここまでに至らなかった。彼をこうまでに揺さぶれることといえば、自らの過去に関連することか、義姉であるブルーのことか。
「……あるいは、さいみんじゅつ、か」
ゴールドがまじめな顔をしてつぶやく。ブルーが顔を上げた。
「そうね。ポケモンを使って精神的ショックを与える幻を見せるというのはあり得る手段だわ……。シルバーを追いつめて、ロケット団に取りこもうとしたのかも」
「でもさ、シルバーはサカキの息子っつっても、ロケット団に入る気ないわけだろ? それで何かメリットがあるのかな」
「馬鹿ねえ、シルバーはあのサカキを揺さぶることのできる貴重な存在なのよ。謀反や革命を企んでいる一派がロケット団のなかにあったとしたら、シルバーに目をつけてもおかしくない」
考えれば考えるほど、もっともらしい説に思えてくる。ブルーは唇を噛んだ。
「……でも、あの子は絶対渡さないわ。あたしが守る」
かつてないほど揺るぎないブルーの声に、レッドも同調する。
「そうだな! 俺も戦うよ。ブルーとシルバーには触れさせない」
「ボクだって、ブルーさんとシルバーさんを守ります!」
「私も力になります」
「まあダチを見捨てるとなっちゃあこのゴールド様の名が廃るな」
「……みんな、ありがとう」
盛り上がった場の空気を見計らったかのように、がちゃりと応接室の扉が開いてグリーンが顔を出した。こころなしか、なんだか疲れた顔をしている。
「シルバーが目覚めた」
グリーンの後ろから、ふらりとシルバーが現れた。顔色は白く、生気がない。ブルーがすかさず駆け寄った。
「酷い顔色よ! 寝てなきゃダメじゃない!」
「……大丈夫だよ。姉さん……俺のせいで、こんな」
「……それで、何があったんだ?」
レッドが尋ねる。一同はごくりと生唾を飲み込んだ。シルバーが意を決したように口を開こうとしたところで、グリーンが、俺から話す、とそれを押しとどめた。けれどもそうしたにも関わらず、グリーンは少しだけどう切り出すか迷ったようだった。が。
「犯人は……………………エロ本だ」
一同、目を丸くした。
グリーンの解説によると、こうである。シルバーは今日、ゴールドの部屋で一人、テレビを見ていたのだが、エアコンのリモコンを探して振り返った矢先、ベッド下に見たことのない雑誌があるのを見つけた。そこで、興味の赴くままに手を伸ばしてしまったのが間違いだった。見慣れない単語と妙な表紙を怪訝に思いながらも中身を開くと、彼の目に入って来たのは——まあ、あえて語ることもあるまい。
幼いころから仮面の男のもとで修業を積み、その後は義姉ブルーと二人きりで生きてきたシルバーの性知識はゼロに等しかった。生理的ななんやかんやもあるにはあったが、シルバーは自分の運命に決着をつけるのに忙しく、それらの些細なことに目を向けている暇もなかった。
とにかく、シルバーを襲ったその瞬間の混乱は、到底計り知れるものではなかった。手に持った雑誌を取り落とし、思わず立ち上がった表紙にふらついて、足元に置いていた麦茶のコップをひっくり返した。それでも動揺はおさまらず、彼はそのまま本棚に背中をぶつけ、その上に不安定な均衡で放置されていた資料類が落ちた。頭の上に薄い教科書が落ちて来たことで我に返ったシルバーは、一目散に逃げだしていた。と、そういうことだったらしい。
「………………ゴールド……」
顔を赤くしたクリスの拳が唸る。
「は!? 俺悪くねえって、事故だ事故!」
「信じられない!! この尻軽ナンパ男!」
世にも珍しいクリスの罵倒の後、追いかけっこを始めた二人を他所に、申し訳なさそうに小さくなったままのシルバーと、思わず赤くなったイエロー。レッドは朗らかに笑った。
「でも良かったよな。ロケット団に狙われてたとかじゃなくて」
「……人騒がせではあったがな。まあ、シルバーに一通りの知識は叩き込んでおいた。知らないまま大人になっていたかと思うと、ある意味ゴールドは役に立ったのかもしれん」
グリーンはそう言いつつもげんなりしている。まさかこの年齢にして誰かに性教育を施すとは思っていなかったのだろう。
「……本当に、何もなかったのよね?」
「うん。……心配かけて、ごめん」
とかく、こうしてシルバーは一つ大人になった。
相も変わらず、平和な日常である。