風邪ネタが恋しくなる季節です。
「馬鹿は風邪ひかないって本当だったのねえ」
オーキド研究所、仮眠室。ブルーの目の前で横たわる男。ついさきほど彼女の目の前でぶっ倒れ、彼女を始め周囲の人々の度肝を、泥棒もびっくりな見るも鮮やかな手腕で抜き去って行った張本人だ。
診断結果は風邪。本人が寝こけているのをいいことに、ブルーはあらん限りの皮肉を込めて呟いた。レッドとグリーンとブルーは、昨日から泊まり込みでオーキド博士の仕事の手伝いとしてハナダの洞窟でフィールドワークを行っていたのだが、そういえば昨日からレッドは妙に寒そうだった。今考えれば、冬ですら半袖でぴんぴんしている彼が腕をさするような仕草をしたのが、そもそもまちがいだったのだ、と思う。挙げ句の果てに、大騒ぎで医者を呼ばせた張本人は、「風邪? ぜんぜん気付かなかった」と発言し、周囲の人々を脱力させるに至った。
「本当だな」
珍しく、ブルーの後ろから無口な男の相槌がかえってきた。グリーンだ。レッドの良きライバルである彼も、今回ばかりはあきれ果てたらしく、なんだか疲れた顔をしていた。無理もない。普通、風邪で人は突然倒れたりはしない。倒れるより先に気付いて、自愛するのが先だろう。おまけに風邪ひとつひいたことのないような頑丈な男が倒れたとあっては、まず重大な病気を疑うところだからだ。
戦う者。彼は、戦うことに関しては天性のセンスを持ち、用意周到とよばれるブルーよりも緻密な策を無意識のうちに張り巡らしている。そのくせ、日常生活においては至極年相応、それどころか人よりも一つか二つ抜けたところさえあって、まるでポケモンバトル専用の計算機だ、と思う。
「バトルの集中力をもっと日常に活かせないのかしら、この馬鹿は」
顔を赤くして眠り続ける少年の鼻の頭を、指先ではじく。
「自称、無敵の男だからな」
グリーンは言った。すこしだけ、言葉尻が笑っていた。