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pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
2026年06月22日 (Mon)
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2015年05月31日 (Sun)
ようやく若干のゴークリ


 無邪気だったころには、わたしは漠然と、ただ惹かれていただけのように感じていた。いつか尊敬のような嫉妬のような、そんな感情を抱くことになるなんて思ってもみなくて、ひたむきに好きだと思うことのできた時代。(感情を抱くってすてきな表現だと思うの。だって誰だって、自分の感情を、恨み辛みですら、まるで自分の赤ん坊のようにだいじに持って歩いている。)子供のころのことって、どうしてひとつひとつのことをこんなに鮮明に憶えているのかしらね。けれどその頃にはもう既に、わたしはあの箱を開けていたのよ。いつ開けたのかも気付かなかったくらいに不意に、深く考えることなく、わたしは蓋を開けた。だけどきちんと考えたところで、やっぱりわたしは蓋を開けていたと思う。
 彼は、そう、鳥じゃなかった。みんな鳥になってしまった後に、彼だけが人間のままでいた。そしてわたしを見るなりこう言った。
「なんでそんなかっこうしてんの」
 そのとき突然、わたしは夢から覚めたみたいになった。光の鳥はみんな消えてしまって、グラスもシーツも、元の場所に戻っていた。それでわたしは考えるのを止めて、鳥としてじゃなく人間として、いままでどおりにやっていくことができた。それからまた暫くしてね、彼が、そのかっこう、なんて言い出したものだから、それ以上は言わせなかった。こんどは鳥になったわけじゃなかったけど、まだ変だって言われるのも恥ずかしいし、ひょっとしたら、いえ万にひとつもないとは思ってたけど(けど、実のところそれ以上に期待していたの)、褒められるのも同じくらい恥ずかしいと思ったから。だけど不意をついてかれが、言ったの。
「オメーのそのかっこう、似合ってる」
 わたしは、光の鳥よりもむしろ、彼をずっと見ていた。本人に言ったら怒るかもしれないけど、わたし、彼のかっこわるいところばかり見てきたような気がする。変なところじゃ格好をつけたがるくせに、諦めが悪いの。いつだってテキトーなくせに、自分で決めたときには最後まで投げ出さないの。ふだん飄々としている彼の懊悩も慟哭も戦慄も、きっとわたしは人よりもたくさん見ている。そしてきっと、彼がもっと強くて、わたしや他の人に縋らないでも自分の苦しみを抑えることができて、また何かの加減で彼の感情の発露がわたしに向けられなかったとしたら。わたしは彼の陽気さや調子のよさをそれほど愛してはいなかった。わたしは彼の感傷の叫びこそ、救い難いほど愛したの。
 ねえ、とわたしは誇らしい気持で一等綺麗な鳥に言う。わたしは人間だったのよって。あなただって人間だったのではないの? さあ、とその鳥は事も無げに応える。考えたこともないな。その言葉が一等綺麗な鳥である所以、彼はおそらく鳥であったの、わたしたちからは見えなくなるほど、その心が高みへ昇っていくほど、いよいよ鳥であったの。オスミウムへ向かうその鳥のどんなに綺麗かということは、とても言葉ではあらわせないようで、ただ一等綺麗なその鳥の、一等綺麗な姿なの。
 どうしてかしら、その鳥の前では、どんなにわたしが自信に溢れて自分の強さを確信していても、誇りも言葉もなにもかもが脆い瓦礫のように崩れ落ちてしまう、そしてわたしは自分が一等醜いような気がして惨めさに泣きたくなる。そのことに関して、わたしは彼の人、わたしの格好についてとやかく言ったあの人にも責任があるように感じずにはいられない、いえむしろ、わたしは彼が殆どの責任を負ってしかるべきだとさえ考えていた。
 彼の人は確かに自ら人間であることを選び取り、自分でも人類を愛してはいたけれど、たまに鳥に向かってはち切れそうな情熱と苦しい表情をすることがある。彼から鳥に向かう感情はいっときであれ、人類全般に向ける感情よりもずっと激しく自意識を主張していたから。そうして空まわれば空まわるほど、ますます彼はそれに心を捧ぐ。わたしを人間に戻した彼の人は、わたしに人間であることを勧めておきながら、そのくせ鳥になれなかった腹いせのように、鳥に対してあらゆる情熱を注いでいた。彼の感傷は、鳥に相対するときだけもっとも熱を孕み、もっとも激しく輝いた。わたしの愛した感情は、決してわたしに向けられることはない。それはべつにいい。要点はただひとつ、鳥に対して全霊をかたむけているその傍で、ふと思い出して気まぐれにピーナッツを摘むみたいに、ほんの軽い気持で、わたしに人間であるように勧めたってことなのよ。
 このことは、最後まで彼には言わなかった。言ってもしようのないことだったし、いまさら哀れっぽく恨み辛みを糾弾するつもりもなかったからだけど、わたしはこのことをほんの一瞬間だって赦したことはない。わたしはこの赦さないということを愛し、そのために彼の無神経と卑怯を歓迎さえした。赦さないことによってわたしが彼に与えたものの輪郭を確認し、その向こうに感傷に喘ぐ彼を見ている。情熱と絶望、交じり合うふたつの海に呑まれ、どちらともなく溺れそうになる彼を愛している。
 彼の人はわたしと同じように、自分が人間であることを問い、鳥にも花にもなれないことを問う。けれど出来損ないにすらなれなかった彼は、わたしよりもずっと多く、その問いを繰り返してきたのじゃないかしら。皮肉なことに、夜と溶け合わんとするほど愛し合い、地上と強く結びついていればいるほど、いよいよ遠くの空を恋しがらずにはおれないの。
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