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pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
2026年06月22日 (Mon)
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2015年05月23日 (Sat)



 光、光。光だったの。蓋を開けたら。そのときわたしは無防備で、箱に詰まった光が天に昇っていくのを見ていた。溢れた光がたくさんの鳥になって、寄り集められながら真っ直ぐ天に向かい、地上と天上とをつなぐ一本の柱のようになった。その先頭が見えなくなるくらいの高みで、光は四散し、流れ星となって、オスミウムのように磨かれた空の上をするする滑っていった。重く、冷たく落ちかかるようなあの空。やがてぞっとするくらい青い夜明けが訪れ、途方もないほど大きな光がすうっと陰と陰の間に差しだすと、がらすのコップも綿のシーツも何もかもが青褪めて、どうにもできないままに、じぶんたちが暴かれるのを息を潜めて待ち受ける。途方もないほど大きなものがすぐ傍まで近づいて来ているのがわかっていて、あらゆる獣のうちでもっとも獣じみた息遣いが耳元を湿らせてなお、金縛りみたいに心すら動かないの。気付いたら、自分もあの光の鳥のかっこうをしているのね。まわりを見ると、がらすのコップも綿のシーツもみんな鳥のすがたをして、同じように天に向かって羽ばたいていくの。
 それがわたしの最初の旅。わたしはたった二、三ヶ月の間で、十年来のわたしを置き去りにしたまま、ずいぶん遠くへ行ってみてしまった。ほんとうなら仕事に過ぎなかったはずなのに、いつからそれが冒険に変わったのだったか、わたしが箱を開けて鳥を放ったのがいつのことだったのか、もう、よく思い出せないの。箱を開けた理由なんてない、不合理ではあっても、開けることがただ自然で、わたしはその箱に入っているものの重さを知らないまま、余所見しながら不用意に開けたというだけ。あの一等綺麗な鳥、ほんとうの天上まで飛んでいける、力強い翼と痩せて傷ついた全身を備えたあの子のオスミウムの空の重さと、反射する強さの光を無邪気に知らないままで。
 わたしの人生の最初の十年間ほど正しく、健全な記憶で満たされていて、完璧な期間はほかに無かった。こうすればみんなが喜んでくれるとか、ああすればみんなを怒らせてしまうとか、そういうことが数学の公式みたいに自明で、わたしの場合さらに悪いことに、数学の公式にほとんど違わぬほど正確に計算することができたということ。いまになって思えば、なにか神様のもとで生活するような感覚だった。そして、当時のわたしは否定するだろうけど、あのころわたしがやりとりしていたのは、報いだった。報いを求めない自分に対しての報いを望んでた。報賞なんていらないと言っておきながら、そういうふうに拒んだという事実に対して、報賞を得ていた。そうと気付かないほど強情に意識しては、身体中に報いを巡らせることがわたしにとっての完全な生活だった。何も見えないから何もかもが見えていて、何も聞こえないから何もかもが聞こえている、真夜中みたいに完全な世界だった。
 光が射して、自分が醜いことにはすぐに気付いたわ、羽ばたいている鳥たちのに比べて翼は半分もなくて、羽の付け根もしくしく泣いて痛むから。連隊を組むでもなく五月雨のように飛び立つ鳥たちは、その多くが途中に羽を捥がれて落ちた。誰に捥がれているのかは、わたしには分からなかった。高いところではつむじ風も羽を手折るのかしら、それとも、彼方の空を妬けるあまりに燃え尽きるのかしら、あるいは、自ら捥いでいるのかさえ。わたしは恥ずかしくって悲しくてどうしようもなく、逃れるように背を向けて歩き出した。
 わたしが拠り所としていたものは、みんな鳥になってどこかへ消えてしまっていた。傍にあったものは全て地上から失われてしまったけれど、わたしは変わらずこの地上、あの真夜中を愛して歩いた。友誼や愛情や細やかな感傷、草が風になびくのや、笑い声のほがらかさや、春先の花の新芽をふくらませるようなことで溢れている大地を、全てが去っていった後に残された死にかけの大地を。(全てというのはいったい何のことなのかしら、わたしはただなんとなく、全てと言ってしまったのだけれど。でも大地はなにひとつ変わってやしなかった、わたしの世界にあったものは全部そっくりそのままにあったはずなのに、どうしてかしら、まあいいわ。)飛び上がろうとする鳥たちの姿がようやく見えなくなったころに、わたしはまだ光の届かない暗く染まった土地に足を踏み入れ、そこに寄り集まる鳥の群れを見つけた。おそろしいほどの数で、黒々とした原っぱの上に無数の撫子が項垂れながら咲いているようにも見えた。それは決して衰弱しているというのではなく、むしろ肥沃な夜の土の上に咲いた自分自身を持て余し、そのために憂いているようなのだった。かつてこの地上しか知らなかったわたしにとって、豊かで充実し幸福なはずの景色が、やたら毒々しく生気づいているようだった。けれど、わたしはかえってその毒々しさのために余計に地上を愛することができると感じた。そのとき、わたしの神様は死んでしまったのだけど。
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