pkmnsp 二次創作ブログ / CP雑食
シルブル。
「ミルキィ」の没版です。病んでない。
ぶつ切りですが、それでも良い方は続きからどうぞ。
「ミルキィ」の没版です。病んでない。
ぶつ切りですが、それでも良い方は続きからどうぞ。
「どう思う?」
二月も半ばの休日のこと、突然ジムに現れたブルーによって、トキワシティ随一お洒落なカフェにグリーンは無理矢理引っ張られて来た。いつもならば多忙な生活を潤す休日を邪魔されては叶わないと、一言物申してリザードンで逃げているところだったろうが、珍しくもブルーの真剣な横顔、その有無を言わせぬ断固とした態度に思わず呆気に取られてしまって閉口、そして今に至る。
「……どうって、お前」
まるで今から果たし合いでもするかのような重苦しい雰囲気の中、いつになく真面目な顔のブルーに気圧されて、咄嗟に言葉が出てこなかった。続く言葉を探す時間稼ぎにコーヒーに口をつける。苦い。そうでなくても、どうしてこうなった、と、心の中は苦い思いで一杯だ。何ともコメントしにくい話題である。グリーンにしてみれば、誰が誰とどういう付き合いがあろうと興味が無いからというところが大きいのだが。
「シルバーだって、年頃なんだから、女友達の一人や二人くらい居たっておかしくはないだろう」
深く考えずに無難な回答を口にしてから、グリーンは後悔した。その答はブルーどころか、グリーンにも信憑性のあるものとは思えないものだった。
「本当にそう思う?」
そら来た。ちらりと窺ったブルーはどこまでも真顔だ。どんな罰ゲームだとグリーンは思う。そろそろ勘弁してくれと願いつつも、素直に謝罪する。
「悪かった、……確かに考え難い」
シルバーは交友関係をやたらに広げたがるタイプではない。もし彼がブルーの知らない少女と一緒に歩いていたというのならば、それはきっとどういった意味であれ、おそらく特別な存在だろう。ゴールドやクリスのように。
「……そうよねえ」
普段なら真先に揶揄いに来るはずのブルーは表情を変えないまま、ただすとんと納得したような顔のまま息をつく。それから何も言わず、ブルーは顔を傾けて窓からトキワの街並を眺めていた。
ブルー、という人間は、グリーンにとってはわりあいに苦手な部類にあった。頭の回転は速いし、賢い。その点は認めているし、頭がいいのは嫌いじゃない。ただ、グリーンは生まれてこのかた、彼女ほど複雑な人格に出会ったことがない。もしかしたらグリーンが見落としているだけで、案外人間というものは複雑に出来ているのかもしれないが、それでも彼女のそれを郡を抜いている、と思う。ずる賢く逞しいかと思えば思いの外繊細で、調子が良くテンションが高いかと思えばふとした瞬間に憂いの影を浮かべる。それでも長い付き合いである。だいぶパターンは読めてきたかと思っていたが、今のブルーの、どこか呆気にとられたような、きょと、とした表情は、また新しい。何を考えているのだろうか、と探ってみようかとも思ったが直ぐに止めた。実際的でないことをするのは彼の主義ではなかった。
「…………あんまり、嬉しくないの。あたし」
確かに嬉しそうには見えないな。グリーンは無言でコーヒーを啜る。ブルーは視線を手元のココアに落としながら、カップ一杯に浮かんだホイップ・クリームをティースプーンですくいとる。見ているだけで胸焼けがしそうだ。
「それは、そうだろう」
お愛想程度に相槌を打つ。誰にも頼らず、たった二人だけで生きてきた姉弟だ。普通よりも弟離れが難しくても、何の疑問もない。しかし、ブルーは首を横に振った。
「ううん、そういう意味じゃなくて…………あたし多分、あの子のこと好きなのよ」
時が止まったかと思った。
一瞬遠ざかった、店内の喧噪が再び聞こえて来たことで我に返る。待て、この女はいま、何でもないような顔をして何を言った。グリーンは内心動揺していたが、表には出さなかった。続く沈黙の合間に何とかブルーの言葉を噛み砕いて平静を取り戻す。が、ブルーはニヤと口角を上げた。
「なあに、ヤキモチ?」
「くだらん」
「こういうときは女を立てて妬いた振りでもしてみせてよ」
唇を尖らせたブルーの邪推をばっさり斬り捨てたところで、だいぶ落ち着いてきた。考えてみれば少しもおかしくはないのだ。小さな頃からずっと一緒にいたこの姉弟は、きっと誰よりもお互いのことを知っている。付け加えるなら血だって繋がっていないのだから、何の問題も障害もない。
「……で? そこまで分かっているなら十分だろう」
何故俺を付き合わせた。休日にアポも無しで押し掛けてきたことを暗に非難したが、ブルーは悪びれた様子もない。ただ少し目を伏せて、考え込むように手元のココアをかき混ぜる。
「……例えば、あたしが告白したとして。あの子は姉としてのあたしを嫌いになるほど狭量じゃないし、自分の気持ちに嘘をついてあたしに合わせるほどカラッポでも弱くもない。分かってるわ。怖いのは、振られたときのことじゃないの」
手を止めて、ブルーは少し困ったような顔をして溜息をついた。少し疲れたような表情をしている。その目が真っ直ぐに、こころもち縋るようにグリーンを見ていた。
……あ。その瞬間のシルバーは、まさにそんな心境だった。
トキワシティの有名なカフェで二人、向かい合って何やら話をしているのはグリーンと、最愛の姉であるブルー。その瞬間の気持ちを、シルバーは上手く言葉にして言い表すことができない。嫉妬や羨望、そういった分かり易い感情ではなかったのだ。持て余していた積み木が、ちょうどすっぽりと落ち着く場所を見つけたような、当たり前過ぎて納得することしかできないような、呆気ない気分だった。
「そんなとこ見せつけられてすごすご帰ってきたのかよ」
コガネのゲームセンターで、ゴールドと並んでスロットを回す。何かあったのかと聞かれたから答えたのに、なにぶん彼は辛辣だった。シルバーにしてみれば、理不尽さすら感じるやりとりである。憤然として、返す。
「どうしろというんだ」
「決まってんだろ、男なら殴り込め」
「必要性を感じない」
苛立ち紛れにシルバーが吐き捨てると同時に、目の前の機械からコインがジャラジャラと吐き出される。何か当たったらしい。ゴールドはコインをまとめてスロットに投入しながら、訳わかんねー、と呟いていた。
おこちゃまのシル公君にはわからねーかもしれねえが、年頃の男女が二人っきりで向かい合って喋ってたらなあ、何も無くても何か起こるもんなんだよ、とゴールドの振るう謎の熱弁を、シルバーは半信半疑の思いで半ば聞き流す。とりあえず何でもかんでも君をつければいいって訳じゃないだろう、と思う。人付き合いの経験は少なくても、シル公君、なんておかしなイントネーションで呼ばれればイヤでも察する。それに何かって何だ。突っ込みたいことは山ほどあったものの、結局シルバーは終始沈黙で通した。目の前でピカチュウの絵柄が揃う。またしてもコインが吐き出される音がする。
一瞬口を閉じたゴールドがスロットを再開し、目線はくるくると回るリールに据えたまま、呟く。
「おまえ、さあ。ブルー先輩のこと、好きなんだろ?」
「…………。分からない」
「分からないってお前」
ゴールドは珍しく、信じられないというような顔をした。それも当然だ、とシルバーはどこか達観したような気分で納得する。かつて同じ質問を投げかけられたときは確かに、彼は肯定の意味を込めて頷いたのだから。
ただ、今日、グリーンと一緒にいるブルーを見たとき、分からなくなった。もし本当にブルーのことを好いていたのなら、もっと熾烈な感情に襲われていたのじゃないかと、彼にはそう思えてならない。それだけならまだしも。
「……確かに、落胆はした。だが、これが自然なんだって、安心する自分もいた」
それはブルーへの気持ちを自覚しながらずっと踏みとどまっている、そのもどかしさから解放されることからの安堵だったのかもしれないが。
ぽつり呟けば、ゴールドはふうん、と気のない相槌を打って、しばらく互いに無言でスロットを回していた。から、この話題はここで終わりかと、シルバーはぼんやりと意識を遠くに飛ばしていたのだが。
「……あーもう! どうしようもねえな手前はよお!!」
突然ゴールドが叫んだので、シルバーはびくりと肩を揺らした、拍子に、三つ並んだリール状で一際派手な絵柄が揃う。スリーセブンか。呆然としたシルバーの横で、ゴールドが再び騒ぎ立てる。スロットの演出も相俟って喧しいことこの上ない。
「相変わらずお前の台ワケわかんねー! 代われ!」
勢いに負けて席を譲ったシルバーが、手持ち無沙汰のまま呆気にとられていると、ゴールドがしっし、と追い払う仕草をする。
「俺の手には負えねーからキキョウのクリスんとこ行ってこい、連絡しといてやっから」
何も言えないでいるシルバーを尻目に、ゴールドはポケギアを片手に早くもスロットを再開する。器用な男だ。流されている自覚はあるが、ともかくこのままここに居ても仕方がない。シルバーは溜息をついて踵を返す。とりあえず行くだけ行ってみようか。正直面倒だが、大半はゴールドとクリスへの義理立てとして、シルバーはようやく重い腰を上げた。
「あ。レッドじゃない?」
通りを歩いていたレッドと窓越しに目が合った。あからさまに女性向けと見えるお洒落すぎるカフェに最初は度肝を抜かれていたらしい彼も、グリーンに手招きをされると大人しく入ってきた。たまにきょろりと周りを気にしながら彼は近付いて来て開口、グリーンに言った。
「シルバーもお前のこと探してたぜ。取り込み中みたいだったからまた今度にするって」
どうやらグリーンの居場所もシルバーに聞いたらしい。グリーンは僅かに目を瞠り、無言で席を立った。その後ろ姿を見送りながら、ブルーはにやにやと笑う。
「あれは相当慌ててるわね」
レッドはテーブルの上をざっと見回して呼び鈴がないのを確認すると、給仕を呼んでレモンティー一つ、と注文した。疲れた顔をしたグリーンが戻ってくる。
「もしかして愛する我が弟と約束でもしてた?」
楽しげなブルーの言葉に溜息をついて、おざなりに頷きながら。
「……。心配しないのか?」
「……心配って……あぁ」
ブルーは合点がいったように頷く。その一方でレッドはきょとんとして二人の顔を見比べている。
「あの子は勘はいいけど、変な勘繰りや早合点はしないわ。大丈夫、それに」
言いかけて、ブルーは誤摩化すように目を逸らした。そのあからさまな様子はブルーらしくもない。グリーンは妙に嫌な予感がしてじっとりと目の前の少女に向かって目を細める。睨む、までは行かずともそのただならぬ形相に、戸惑ったようにレッドが、グリーン? と名を呼ぶのが聞こえたが、グリーンは応えない。
ブルー。としずかに呼ばれる、と、目線を明後日の方向に飛ばしていたブルーはちらりとグリーンを見て、観念したように小さく溜息をついた。何とも言えない表情だった。ほっとしているような、同時にどことなく落胆しているように、肩の力を抜いて、ブルーは口を開いた。
「…………たぶん、なんだけどね。あの子も、あたしのこと好きなのよ」
「あの子?」
目を丸くするレッドに、グリーンがぼそりと、シルバーのことだ、と呟く。レッドが僅かに驚いた顔をする隣で、グリーンは片目を細めていた。
ブルーはココアに浮かぶクリームの泡をくるりとかき混ぜて、頬杖をついて上目に天井を眺める。初めはほんの小さな子供が自らの無力さに怯えて寄り添い合っていたに過ぎなかったのに、いまはもう、お互い十分なほど強いことを知っていて、それでも傍にいることを止められない。その感情の変化は境目が分からないほど穏やかにゆっくりで、まるで夢の中のように、ふわふわと蕩けている。気付いたら惹かれていて、気付いたら、お互いの気持ちも知っていた。自然な変化すぎて、それはいつだって二人の間に溶け込んでいた。それでも、手を伸ばしてしまえばそのセンシティブな感情を壊してしまいそうで、繫いだ手をそのまま、二人揃って見ないふりをしていた。親に向かって手を伸ばす子供のような甘やかな気分の中、ぼやかして直視しないまま。
「このままでもいいって思ってたわ、あの子もあたしも傷つかないのなら。でも、今日女の子と歩いてるあの子を見て思ったの。こうしてる間にもあたしはあの子の選択肢を奪ってる。きっとそのうちに未来もそっくり奪うわ」
家族でもあり、恋人でもあり、同胞でもあり、戦友でもあり。そんな曖昧な関係のままでどこまで行くつもりなの? これじゃいつまで経っても迷子の二人のまま。巨大な力に怯え、理由もなく寄り添い合っていた小さな子供のまま。そんなことは望んでない。あの頃のように隠れるように街を移り住んだりすることなく、ここがあんたの居場所なのって、そう、言ってあげたいの。
このまま進んでいったら、きっと優しいあの子はあたしのために迷子の子供でいてくれる。いつまでだって、姉さん、ってはにかんで呼んでくれる。
「あの子はあたしなんかよりずっと強いの。ちゃんと帰る場所が出来たら、きっと何処にでも行ってしまえる。手放したくないのはあたしのほう」
「そこまで分かっていて、何故」
「…………俺は分かるなあ、少し」
グリーンを遮ったのはレッドだった。いつの間にか手元に来ていたレモンティーのストローを指先でくるくると回しながら、真面目な顔で彼は言う。
「シルバーならやるだろうな。いざとなったら、どんなことでも」
「なんでお前がそんなことを知っている」
「んー……だって父親似だろ、完全に」
レッドにそれを言われると、ぐうの音も出ない。思わず開きかけた口を閉ざしたブルーだったが、グリーンは引き下がらず、憮然として言い返す。
「シルバーはシルバーだろう。ブルーを大切に思っているのには違いない」
レッドは暫く黙って考え込んでいたようだが、やがて笑って。
「……うん。そうだよな。それにいざとなったら俺たちもついてるしさ!」
「……」
さりげなくグリーンを巻き込むレッドにも、今度ばかりはグリーンは何も言わなかった。
……なんだか、あまりにも呆気なく、肩の荷が下りてしまったようだった。ブルーはしばし呆然としていたが、やがてようやく、小さく笑った。
「そうだったわね。……ありがとう。レッド、グリーン」
シルバーとゴールドは、親友でもあり、ライバルでもあって、そしてお互いにベクトルは違えど劣等感を抱いている。ゴールドはシルバーの才能、特異な境遇に。シルバーはゴールドの自我、満たされた過去に。だからこそお互い対等で居たい、負けたくないという気持ちが強すぎて、この二人は顔を合わせれば強がりばかり言うのだからどうしようもない。
『俺じゃあいつの本音はそうそう引っ張りだせねえからよ』
ポケギアの向こうでスロットマシンの音をバックにゴールドはそう呟いた。彼が手に負えない、と言い出したのはきっと、その辺りを自覚しているからだとクリスは思う。あの二人はどこまでいっても平行線を辿ることがよくある。
「いいけど……言いたいことがあるなら自分で言ったほうがいいと思うわよ」
『わかってるって、とにかく頼んだぜ!』
調子のいい声の直後に何か叫んでいた。スロットで大当たりでも出したのだろうか。間もなくして自宅のチャイムが鳴って、クリスはポケギアの通話を切る。コガネとキキョウは目と鼻の先だ。
シルバーをリビングに招き入れてあたたかいお茶を淹れた。いちごやさくらんぼの描かれたかわいらしいカップに彼は目を丸くしていたが、それに関しては何も言わなかった。困った。こういうとき、どう切り出せばいいのだろう。
「…………ゴールドから、大体の話は聞いたわ」
「……ああ。すまない、あいつが、」
「いいのよ。謝ることじゃないわ、ゴールドだってあなたを心配しているのよ」
戸惑ったように口を噤んでしまうシルバーに、なんだかこっちのほうが申し訳なくなってしまう。
日常の中ではシルバーは、いつの間にか消えてしまってもおかしくない、あやふやな感じがある。復讐にひた走っていた、出会ったころの鋭さや激しさは近年すっかり成りを潜め、いまおそらく彼を満たしているのはかつてと同じ、ブルーその人だ。シルバー自身も、自分とブルーとの境目が見えていなくて、だからこそ「分からない」のだろう。
多分ゴールドには、ちゃんと見えている。けれども、彼がシルバーを納得させるのは難しい。言い合いをしていくうちに、売り言葉に買い言葉の応酬になるのが目に見えている。さてどうしたものかとクリスが考えていると、意外にも、シルバーのほうから口を開いた。
「……別にこのままでもいいんだ」
「え?」
「姉さんは怖がってる」